02

私って空飛べたっけ。
レポートどうしよう、締め切り近いよなんて思ってたから現実逃避でもしたんだろうか。まあ逃避したところでレポートの期日は延びないんだけど。帰ったら取り掛かろうとして、あ、寝たのか。昼寝。空を飛ぶ夢を見てるんだきっと。そう、飛ぶ夢。

飛ぶ、というか、これって落ちてないか。夢でくらい出来ないことをすればいいのに中途半端だよこれ。しかも時代劇みたいな風景、夢は謎なのが常だけど、これはトップクラスじゃないかな。


(…に、して、も!)


風圧がすごい。怖いけど悲鳴も出ない。いや、怖すぎて悲鳴も忘れる。夢だよね。夢なのになんでこんなにリアルなの。地面に激突したら私死んじゃう。いや、夢だから本当に死ぬわけじゃないけど。でも怖い、普通に怖い。夢でもそんなオチ嫌だ、絶対に。


夢だ夢、夢。
ああ、それなら誰かに受け止めてもらいたい。男でも女でもいいけど、衝撃軽減なら逞しい男がいいのかな。私一人くらい簡単に持ち上げられちゃうような、「ハハハ、軽いなキミは」とか言っちゃうような筋肉マンがいい。いや、逞しすぎたら痛いか、ぶつかったとき。

そうこう考えてる間にもどんどん落ちる。痛そう、絶対痛い。


(え?え、あれ、ひ、ひとっ!?)


よくわからないけど多分、人。男か女か、とにかくこのままだとぶつかって大事故になる。どいたほうがと念じてみても人と思しき塊が動く気配はない。夢とはいえ殺人まで犯すのか私は、それはちょっといただけないぞ。


「……どいっ…!」
「ああ、」


上手く声は出ないし届く距離でもない。それなのに何故か人が返事をしたように感じて、それがまた程好く低くて甘かったりする。

男、だ。
妄想もここまでくると自分の頭が心配になるな、流石に。


(…はあっ!?)


やっぱり、私の言葉は彼には伝わっていなかったらしい。あろうことか受け止めるように、まさに「ハハハ、軽いなキミは」を実践するかのように、甘い声の主は手を広げる。僕の胸に飛び込んでおいでだ、まるで。こんな状況でなければ喜んで飛び込む、うん。


「だ、だめっ!し、ぬぅ…!」


顔が見えた。ああ、何だこの超絶イケメン。

避けるという選択肢を持たないらしい超絶イケメンは、物凄い勢いで胸に激突した私を転びながらもしっかり、ご丁寧に背中に手を回して抱きしめてくださった。痛いは痛い、すごく痛い。でも。


「………」
「死んだか?」

頭上で響く少し痛みを堪える声、それさえ素敵とは超人だ。そう、声。ちゃんと声が聞こえるんだ。

「生きて…ます」
「そうか。それはよかった」


死んでない、私。
そうだ、お礼を言おう。そしてその顔を拝もう。あくまでお礼が最重要かつ本目的であって、決して滅多に存在しない控え目に言ってもイケメンの彼を見たいわけじゃない。それはついでだ。


「あの、」
「何だ、天人じゃないのか。…奇妙な着物だからやはり天人か?」
「………」


夢のはずなのに鎧の質感がリアルとか、強打した鼻が痛すぎて鼻血出てるんじゃないかとか、思うところはあるけど。


「妖怪かな」


自分の頭が可哀相でもいいや。

こんな何をしても思わず許してしまいそうな完璧な、それこそ作り物みたいな人を夢に登場させた私、素晴らしすぎる。



20110531

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