笑えないからよしてよ

「令明」


所用を済ませてきたらしい令明を見付けて名を呼ぶと、あまり変化しない表情が珍しく動いた。こうして驚いたように瞳を丸めるところは可愛いなあ、と思う。

可愛いけど、私が声を掛けること自体は希少ではないのだ。私が呼べば令明は何時も「ああ」と薄く反応するのみ。何故わかるのかといえば、気配なんだとか。聞き慣れた足音も合わさってすぐに私だと判断が出来るから驚くはずもないと、令明が言っていた。


「なまえ殿か」
「出掛けてたの?珍しい」
「…そうだろうか」
「何時もは、私が連れ出さないと息抜きもしないじゃない。戦が近いとなれば鍛練ばかりだし」


戦が近い。
相手はあの関羽だと聞く、そう易々と運びはしないのだろう。


「某は、休み方をよく知らぬ」
「令明らしい。ところで、何をしに?」
「ああ。棺を、依頼しにいった」
「――棺?」


令明の表情は変わらない。
驚きも悲しみも、苦しみも感じない。驚いているのは私だけ。私だけが、令明の言葉に酷く動揺している。


「国に、曹操殿に忠義を誓い、本分を全うする。…それが、某の心根だ」
「それは勿論、私だって」
「某のこの命。曹操殿の道と成り得るのならば、常に覚悟は出来ている」
「ねえ」


何の意味もなく棺を作るはずがない。棺とはつまり、冗談や暗号などではない限り、思い当たるのは一つだ。令明が依頼したという棺。当然、そこに入る決意を固めているのは。


「恩義だ、なまえ殿」
「わかって、」


貴方はどうして、どこまでも。



end.

20111226

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