いつでもどこでも君をまもる

もう駄目と思ったのは、使い物にならなくなった腕から流れる血が止まらないからだ。こんなところで死ぬのか、曹操様の覇道を切り開くことすら出来ていないのに。「あんたのそれは妄信だ」と嫌味ったらしく吐き出した賈ク殿が思い出されて、腹が立つ。

一度下がって処置をしなくては。菌でも入って病に臥すだなんて御免である。利き手ではないから得物も上手く扱えないし、馬で駆けるにも困難。攻撃を払うくらいがせいぜい限界で、決定打も与えられない。


「っ、くそっ!」


こんなに苛立つのも賈ク殿の所為、そうに決まっている。賈ク殿の言葉さえ思い出さなければもっと冷静に、いや。どうあれ、この状況にやり場のない怒りを覚えていた。今はただ偶然、賈ク殿というやり場を見付けただけに過ぎない。


「ちっ!」
「優雅ではありませんよ、なまえ殿。将たるもの戦場にあっても、戦場でこそ美しく輝かなければ!」
「え、」


一振り。何とか得物を弾くと、鉤爪と聞き慣れた声がすぐ横に。将軍と呼ぶ声は隊の人間。張将軍に救援を、切れ切れの合間に挟まれた事実に言葉を失う。


「油断とは感心出来ませんね。私が近くにいたからいいものを、そう都合よく運ぶものではないのですから」


それこそ舞うように、常から張コウ殿が口にしている優雅さを欠くことなく敵を薙いでいく。目を奪われて、しまいそうだ。私もただ呆然としている場合じゃ、ないんだけど。


「張コウ殿…」
「この張儁乂、なまえ殿の助太刀に参りました」
「感謝いたします、不甲斐ない味方で申し訳ございません」
「謝罪は後程。ですが一つだけ、お伝えしておきましょう」
「は、はいっ」


微笑みも、優雅。
それに不可思議な言動が多々見られる方ではあるが、実力は本物だ。張コウ殿が来てくだされば私は死なない、そう確信出来る。


「花とは、無理矢理に散らすものでも手折るものでもありません。大切に慈しみ、自然と果てるまで愛でるべきものです」
「…はあ」
「ですからなまえ殿、私はあなたを散らせはしません」
「は――えっ!?」


そう、実力も本物であり男なのだ張コウ殿は。戦場で考えることでは、ないのだが。



end.

20111221

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