綿菓子が雲からできていたら

ごろりと寝転がって空を仰ぐ。頭を使うことは苦手だ。軍師殿の言葉通りに任を全うすることはできるけど、あの人達の言うことはいちいち小難しい。もっと噛み砕いてくれたらいいのに。

失礼ながら「お悩みなら、時間を掛けて教えてあげるよ」と笑う郭嘉殿には乗りたくない。多分一番優しく教えてくれるだろうけど、嫌だ。


「なまえ、やっぱここが好きなんだなあ」


太陽の眩しさと軍師殿を思い出して眉を寄せているとのんびりとした声が届いた。その声によく合う笑顔とつぶらな瞳を持つ、殿の親衛隊。力自慢の親衛隊二人は揃って可愛いところがあるけど、殿の癒しも兼ねているのだろうか。


「許チョ殿」
「ふらふらして部屋から出てったから、ひょっとしたらここにいるんでねぇかと思っただよ」
「お見通し、ですか?」
「なまえはよく、ここで休んでるからなあ」
「…あれ?許チョ殿がそれをご存知ということは」
「ん?ああ、おいらもだな」

朗らかに笑う許チョ殿は私の横に腰を下ろすと、同じように寝転がる。跳ねた草が鼻を掠めて、少し擽ったい。

「鍛練した後にここで寝転がるのは気持ちいいからなあ。なまえは違うだか?」
「私、そのまま寝てしまって夏侯淵殿に起こされたこともありますよ」
「おいらは典韋に呆れられただよ」


恐らく典韋殿は「仕方ねぇなあ」なんて言いながら許チョ殿を起こそうとするのだろう。それか許チョ殿に誘われて、一緒に空を見るか。お二人の間に流れる独特な、お二人だからこそ作り出せる和やかな雰囲気はとても好きだ。安らぐもの。


「典韋殿がここにいらしたら――…あ」
「うん?どうしたあ、なまえ」
「あの雲、おいしそうですね」
「なまえ、腹減ってるだか?」
「頭を使いすぎたのかもしれません」


次の戦では、伏兵の下まで敵を引き付ける役を担った。そう難しい任ではないけど、「話があるから」と私を留めた郭嘉殿は確実に、わざと難解な言葉を選び説明をなさったものだから。

程イク殿曰く、「あれはお前をからかって楽しんでいる」だそうだ。一言二言で済みそうなものをわざわざ冗長にしているのだとか。人をからかって何が楽しい、趣味の悪い。


「ん〜…確かにうまそうだあ」
「許チョ殿ならわかってくださると思いました!」
「空飛べたら食えるだか?」
「…鳥は味を知っているかもしれませんね」
「だとしたら、羨ましいなあ」
「ふふっ。そうですね」


ああ、本格的にお腹が空いてきた。



end.

20111228

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