どうせなら触れて

近付いてみれば少し離れて、手を握ろうとすれば両腕を上げて万歳をするように。その行動を怨みがましく睨んでみたら困惑して謝るくせに、抵抗は止めない。


「…典韋」
「いや、だって姫様…!」


夏侯惇でさえ簡単に私を持ち上げてしまえるから、その夏侯惇よりも大きな典韋は軽々とやってのけるに違いない。

知りたいのだ。
典韋の高さから見える世界を、典韋に抱えられて感じるあたたかさを。「姫様に気安く触るなんざ」なんて言い訳は聞き飽きた。私が構わないと言ってもお父様が望むようにしてやれと言っても、典韋は頑として頷かない。

大切なお父様が、その大切なお父様の娘が許可をしているのに、意気地無し(何か違う気もするけど、まあいい)。


「夏侯惇はやってくれる」
「そりゃ旦那は、殿に近しい人ですし…」
「夏侯淵だって」
「わしとお二人じゃ立場ってもんが、」
「…私がいいと言ってるのに」
「お、怒らないでくだせえ、姫様」
「怒ってないわよ」
「どう見ても、いやっ!」


情けない表情で頭を掻きながら、本当に情けない声を出す。お父様に無理難題を突き付けられた時と同じだわ。あら、これって親子ってことかしら。


「姫様は、どうしてわしに拘るんです?」
「そんなの典韋が好きだからよ」
「すっ、好きって姫様!わしだってそりゃ、殿も姫様も好きでさあ。姫様が喜ぶようにしてやれって殿にも言われて、」
「なら抱きかかえてよ。それが私の望みだわ」
「それも…」
「どうして!」


こんなことで癇癪を起こすのは確かに子供かもしれない。だけどそれで願いが叶うなら、子供でも我が儘でもいいわよ。

何より、こうして押し続けないと典韋は聞いてくれないし。


「何て言やあいいのか…その、照れ臭いんでさあ、姫様を抱えるのは」
「それは、いい意味で?」
「い、いい意味?別に、子供だからとかじゃなくて…姫様も当然、女なわけですから、」
「……ならいい」


明白に安堵したような表情。でもね、典韋。そうしていられるのも今のうちよ。


「私、諦めるとは言っていないわよ?」


ほらみなさい、驚いた。



end.

20111230

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