ヒロインは俺に必要ない

守るべき相手が出来れば人間は強くなる、ものなのだとか。実際、故郷の想い人に会うために生きて帰る決意を固める兵卒を見てきたし、まあそれで戦力が上がるんならこちらとしても万々歳だ。とは言え。

軍師である俺に「傷付けたくない大事な女性」が出来るのは些か面倒で。娶ること自体に問題があるわけじゃなく、その傷付けたくない存在も駒の一つである場合どうにも揺らぎが生まれてしまうのだ。結局俺も、人間だからね。


「いやはや困ったね、まったく」
「や、やはり、戻ります。賈ク殿の邪魔をするわけには…」
「ああいや、別にあんたがいて気が散るわけじゃあない。気にせず茶を飲んでてくれ、何ならお代わりもあるよ」
「…………」


眉間に数本、皺が出来る。
特別秀でた部分があるわけではないにしろ、屈強な男共と比較すればなまえ殿は身の軽い女。なまえ殿だからこそ渡れる山道もあるし、戦場では曹軍古参と呼んで差し障りない年数を重ねてもいる。

俺よりも長い間曹操殿に従属しているから、だけではないだろうが、あの猜疑心の強いお方の信も得ているようだからね。


「いや本当に、なまえ殿が邪魔ってことはない。寧ろ、いてくれた方が嬉しいんだが」
「…え、ど、どうなさったのですか賈ク殿、突然」
「おっと。口が滑った」
「滑った、ですか」


こうしてなまえ殿を眺めていると、こんな時がそれなりに続いてくれたらいいと思う。このご時世じゃ恒久ってのは高望みだから、少しでも長く。

まあだからこそ、自らの手で壊す必要はないだろうと考えてしまうわけだ。いやあ、甘いにも程があるな。


「なまえ殿」
「は、はい?」
「出てくんだったら、竹簡を届けるよう命じた郭嘉殿に一つ文句を頼むよ」
「…はあ」
「心に置くにしても、限度ってものがあるからね」


許容外になる前に、誰かの妻にでもならないかね。



end.

20120105

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -