ちゅ、として一緒になりたい

この、沸き上がってくる欲求は何であろう。何であろうと言っても、色恋を知らぬ幼子ではないのだ。自分自身を蝕む感情は、それなりに理解しているつもりである。

だが、理解と処理は別問題。眼前の彼にも様々な疑心を抱いているが、偶然出くわしたと言うには安堵が大きすぎるため恐らく捜していたのだろう。無意識下で求めるのであれば是非とも彼女がよかった。そう考えてしまったある種の煩悩を持つ自分が、酷く汚らわしく思えてならない。


「いいことではない?武を極めることにしか興味のなかった張遼殿が、女性に目を向けたのだし。まあ、なまえ殿というのは実にあなたらしいかな」
「…それは、どういった意味合いで」
「怖い顔をしないでよ。なまえ殿を馬鹿にしたわけではないさ」
「…失礼した」


そうだね。
自分とはまったく異なる顔形に響く声。なまえもやはり郭嘉のような男を好むのかと考えると、思い込みでしかないのに苦しくなる。これは病気だ。なまえは別段、郭嘉の女でも張遼の女でもないのに。


「なまえ殿も曹操殿の為に死力を尽くすことを第一としているから、誘っても乗ってくれなくてね。…そこが、張遼殿らしいかなと」
「よく、」
「つまり。至高の武を目指す張遼殿が、同じように高みを目指すなまえ殿に惹かれるのは必然って話」
「はあ」


郭嘉の誘いを断っているというのは朗報だ。なまえは、郭嘉に恋愛感情としての好意は抱いていないと。嫌悪も抱いていないのなら変わりようはいくらでもあるのだが、まず心配はいらないだろう。

張遼の知る限り、郭嘉に言い寄られて悪い気を起こす女は少ない。彼自身が眉を顰めたくなるくらいに女に慣れているから、自然と高揚させる言葉を贈ることが出来るのだ。そんな相手が敵になれば、張遼に勝ち目はないと断言出来る。


「助かりました。郭嘉殿がなまえ殿を想っているとなれば、苦戦は必至ですからな」
「なまえ殿は確かに私に興味はないけれど、私がどうかはわからないじゃない」
「………」
「あはは、大丈夫。可愛らしいとは思うけど、友愛という好意だよ」
「事実ですか?」
「事実。ごめんね、からかいすぎた」


安心はしたが、なまえは何故郭嘉に惹かれないのだろうとも思う。彼は器用だし女を喜ばせる術を持っている。不器用な自身を思えば郭嘉に惚れるだろうと感じてしまう。好みの問題も生じてくるわけだが、そんなもの張遼にはわからない。


「ちなみに張遼殿は、なまえ殿をどうしたいの?」
「…下世話では」
「そうかなあ?張遼殿の返答次第だと思うけど」
「私は別段、変わったことを望んでは」
「口付けて気を失うまで抱き合いたい?」
「……聞いてどうするおつもりか」
「張遼殿も普通の男なのだと確かめるだけ、かな?」


それは勿論、男なのだし。
開きかけた口を閉じたのは、間違いではあるまい。



end.

20111220

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