「御前試合?」
「うむ」
自慢の将同士、日頃の成果を思う存分に発揮し、その武を味わう場がほしい。徐晃様のお話によると、どうにもそういうことらしい。何でも曹操様たってのご希望で、夏侯惇様に至っては、何時にも増して気合いを入れていたのだとか。
常から己を磨き、武の頂を目指しておられる徐晃様のこと。よく語り合われる張遼様以外とも刃を交えることが敵う御前試合をとても楽しみにしていらっしゃるに違いない。
身を震わせていらしたからあたたかいお茶をと提案したけれど、本当なら今すぐにでも鍛練に向かいたいのだろう。
「この身にも、自然と気合いが入るというもの。張コウ殿や曹仁殿らとも打ち合うよい機会となろう」
「よろしゅうございますね、徐晃様」
「うむ」
「…曹操様の命とのことですが、軍師様方は?」
「賈ク殿は参加するように、と。司馬懿殿は逃げられた」
「まあ」
頭を使うことを得意とする彼らまで、武官と同じ場に立てと。
確かに賈ク様は知らぬ間に背後にいて、驚く私を何度もお笑いになっているけれど。鎖鎌をお使いになる、と聞いた覚えもある。失礼ながら司馬懿様はお顔色も常から青白いし武芸に明るいようには見えない。
曹丕様はその場合、司馬懿様を庇い立てなさるのか、面白がって放置か。
「…でしたら、やはり曹丕様が?」
「いや、主の息子であるからと遠慮は不要との仰せであった。ならば全力を以て挑むのが礼儀であろう」
「左様にございますね」
「今の拙者がどこまで通じるか。…楽しみなことよ」
輝く徐晃様の瞳はとても綺麗だ。この色を見ると吸い込まれて、何も考えられなくなる。とても純粋な、心惹かれる色。
「徐晃様」
「どうした?なまえ」
「私は、徐晃様を応援いたしますね」
「それはありがたい」
「試合中はずっと、お祈りしております」
「すまぬな、なまえ」
「…ご武運を、徐晃様」
「緊張したように。どうしたのだ、なまえ」
伝えたいことはまだまだあるけれど。私にはそう吐き出すだけで、精一杯だ。
end.
20120101