傍には居てあげない

このところ、曹丕様は些か沈んだような面差しをしていらっしゃる。原因をそれと断言できるわけではないが、恐らくは甄様が身罷られたからであろう。

甲斐甲斐しく世話をするのは曹丕様付きの女官の役目であり、甄様の女官であった私には関係のないことだ。曹丕様が私にご命じになったのならばその限りではないが、彼は私には世話を頼まない。時折、気が向いたらなのか狂れそうになったらなのか、話し相手として呼ばれることはある。本当に、ただの話し相手として。


「…お顔の色が、悪うございます」
「そうだな」
「私を見るだけでもお辛いのなら、何故召し出されるのですか?」
「辛い?…そう見えるか、私は」
「私では、判断しかねます」
「そうか」


口数の少ない曹丕様が私と言葉を交わすのは、亡き甄様をご自身に手繰り寄せるためか。手繰り寄せたところで何をなさるおつもりなのだろう。甄様が果てたのは。


「甄は、随分とお前を可愛がっていたらしいな」
「らしい…」
「私は知らぬ。それも人伝に聞いた」
「左様にございますか」


甄様を娶られたのは曹丕様だ。官渡から凱旋なさった際にはその傍らにお姿があった。曹操様がご命じになったわけではなく、曹丕様のご意思で甄様を己の傍らに置くと決められたのではなかったのか。


「甄は」
「我が君を怨むなと、仰せでした」
「………」
「我が君にはお考えがある。醜く喚いて果てるのは皇后に相応しくないと、仰せでした」
「甄は、」
「最期まで皇后であると、仰せでした」
「…お前は」
「私は」


曹丕様の瞳が、悲しみに揺らいだように見える。このお方にとって、甄様とは何だったのだろう。

少なくとも、飾りではなかった。甄様ご自身が飾りであることを拒ばんだのだ。もし飾りでいたならば、先はあったのだろうか。


「私は今も、一生この心を、甄様に捧げております。甄様の願いに反するようなことは、決して」
「甄の言がお前の心か」
「はい」


ですが曹丕様。私は貴方様を、死ぬまで。



end.

20111231

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