53

「思いの外、上手くやっていたようだな」
「……はあ」


別に必要ないのにメールで帰り着いたことを知らせ、仕事が終わる頃に帰るように急かす。着いたら着いたで久しぶりに会った父親にはしゃぎ疲れたようで、今現在なまえ殿はソファーで丸くなって寝息を立てている。グラスを傾けながら娘を見る曹操殿の瞳は、柔らかだ。


「しかし、まさかおぬしの手料理が食べられるとは思っておらんかったぞ」
「成り行きと言いますか。喜んでいただけたのなら、幸いです」
「おぬしは子供が嫌いだろう。なまえのような、我が儘放題のが」
「嫌い…苦手ですね」
「そうか。まあ、同族嫌悪というやつだな」
「同族?」
「おぬしも大概よ」
「…そうでしょうか」


そんなつもりは、ないのだけれど。曹操殿が頭を撫でると零れる小さな声。同族、ね。時折感じる子を想うような情はそれが要因だったのかな。


「――そう、一つお話が」
「何だ?」
「お話というより確認事項ですが、なまえ殿と会ったことはないですよね、私」
「ないな」
「曹操殿の話だけで私を気に入ったと?」
「それも少し違う」


手にしていたグラスを机に。もうワインは空だ、そろそろお帰りになる時間だろう。なまえ殿との日々もこれで終わり、明日からは慣れた環境が戻ってくる。


「なまえは、おぬしを見ておったからな」
「見ていた?…お伺いしたときに?」
「好奇心が強くてな。こっそりと覗いていたら、どうにも気に入ったらしい。おぬしは、見た目だけならば絵本やら漫画の王子様に相応しかろう?」
「それは」
「甄姫が言うておったぞ。なまえも王子様だとはしゃいでいたが」
「――ああ、はあ。…成る程」

それなら好感度なんて下がってくれていいのにね。こんな性格してないよ、女の子が好きそうな漫画だとか絵本の王子様は。それとも最近は、事情が違うのかな。

「なまえ、起きぬか。帰るぞ」
「かえるー…」
「夏侯惇が痺れを切らす。ここまで上がって来たら大事よ」
「元譲おじさま…?」


徐々に覚醒はしているらしい。映っているかはわからないけど、目を開いたなまえ殿は私を、見ている。


「……郭嘉」
「そうだね」
「郭嘉」
「何?」
「…また会える?」
「さあ。私は遠慮したいけど」
「馬鹿っ!父様!!」
「わしは何も理想化はしておらんかったろう。郭嘉は郭嘉よ」
「元譲叔父様は!?」
「下で待ってるって」
「帰る!父様早くしてっ!!」
「急にどうした?」
「二人とも嫌っ!!」
「それはありがたいね」
「ありがたくないの!」


私が王子様も笑える話だけれど、この子もお姫様と言うよりはそれを攫うか食べるかする怪獣の方がぴったり、だと思うけどね。



fin.

20130718

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -