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電話越しに笑っている気配を感じる。私にとっては少しも笑い事では、それはまあ、娘の我が儘なんて親にとっては可愛い主張程度なのかもしれないけれど。特に、なまえ殿の場合。


「やはり、おぬしに任せたのは正しかったな」
「曹丕殿が苦手だというのは、建前だったと?」
「おぬしなら気付こうて。まあ、子桓が苦手なのも事実ではあるが」
「…陳羣殿に言われたのですが、私の生活改善ではないかという話も」
「結果としてそう働いたのならば上々よ。して郭嘉、随分と疲れているらしいが?原因はなまえか」
「……まあ」


だってね、煩いんですよ、とは流石に言えない。言わずとも曹操殿ならばご承知とは思うけれど。私の性格をご存知の上で私に預けたのだものね、なまえ殿を。


「何を言われた?」
「鍵が欲しいと」
「鍵か。指輪でないだけ幸いと思え」
「…笑えない冗談は嫌いです、曹操殿」
「冗談であればいいがな」
「………」
「どんな顔か容易く想像出来るぞ、郭嘉」


曹操殿が楽しそうにしていらっしゃる。それはいい。いいのだけど、さあ。


「所詮は子供の言うこと。忘れるまで付き合ってやってはくれぬか」
「半年くらいしたら忘れます?」
「何を必死に」
「…だって、冗談じゃないですよ」
「あやつに冗談のつもりがないのなら、当然冗談ではないな」
「曹操殿」


確かに必死、かな。だってそれは、今でさえ削り落とされている私の安寧が更に削がれるということなのだろうし。自分の身は可愛い。どれほど敬愛しているかわからない曹操殿の頼みであっても熟慮の時間をいただきたくなる案件だ、なまえ殿への合い鍵譲渡は。


「案ずるな、戯言よ」
「…はい」
「しかしあやつもわしの娘、そう易々とは諦めぬかもな」
「……曹操殿」


なんてことだ。扉の向こうで眠りこけているだろうなまえ殿が、とんでもない化け物に思えてきた。



20130704

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