響き渡るチャイムの音に眉が寄る。朝から煩い。まったく、何回鳴らす気だ。
今日は休日、曹操殿が発たれる日でもある。見送りは必要ないと言われてしまったし、曹操殿は私が休日に外に出ないことをご存知だ。気にはしないだろう。
(…ああ、)
ピンポーン、ピンポンピンポン、ピンポーン。鳴り続けるチャイムに眉間の皺は深まっていく。近所の前に私に迷惑だよ本当に。両隣、同じ階の人間は何をしているかわからないから、この時間に眠っているのかさえわからないけれど。
「うるっさいなあ…!」
私は滅多に怒らない。素行がいいとは言わないし寛容でもないけど、当たり散らすような人間ではない。それでもねえ、うん。
「何、朝から。何処のだ、」
ぶつぶつと文句を吐きながらドアスコープを覗いてみる、と。
「え」
目が合った、こちらをじっと見ている女の子と。向こうからは認識出来ているのかわからないけれど、見たこともない子だ。しかも避けて通りたい、我が儘そうな雰囲気の(何処か不安そうにも見える)。
(…無視、もなあ…)
勘違いしないでほしいのは、私が避けたいのは扉の前に立っているような幼い子の我が儘であり、女性のではないということ。騒がしい所謂餓鬼は避けたいに決まっている。耳が痛いし疲れるもの。
「…お嬢さん、部屋を間違えた?」
「あ」
ずっと立たれているのも迷惑だし。そう思って扉を開けると跳ねる女の子の肩。丸くなる双眼は、女性には程遠い。
「あ、あなた、郭嘉?」
「は?」
「郭嘉。郭奉孝?」
肯定以外の返事は許さないとでも言いたげだ。まあどの道、私が郭奉孝で間違いないのだけれどね。さて、どうしてこの子は私を、私の家を知っているのかな。
「…そう、だね」
「よかった!私、曹なまえです。父様に言われて来たの。暫く郭嘉に面倒を見てもらえって」
「………ああ、」
「よろしくお願いします!」
「…よろ、しく…」
取り敢えず、私の子でなくてよかった。
20121116