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「あ、お帰りなさ――…」

そこで言葉を切ると、夏侯覇殿はぽかんとした表情で私を見る。正確には私と言うより私達、かな。

「…なまえ」
「どうにも疲れたらしい。散々ごねて、体力を消耗したんだろうね」
「え、買ったんですか?」
「実に無駄な出費だよ」


私は帰りたかった、なまえ殿は服が欲しかった。なまえ殿なんて何を着ても大差ないと思うのだけれど、彼女には彼女なりのこだわりがあるらしい。迷惑な話だよね、全く以って。


「郭嘉殿なら放置ぐらいしそうなもんなのに」
「流石に、子供を街中に置いて帰るような真似はしないよ。人で無しではないからね」
「なまえからしてみたら充分、じゃないですかね」
「それは、なまえ殿が煩いのが原因だ」
「子供は我が儘を言うのが仕事、ですよ」
「…夏侯淵殿か」
「ま、受け売りですね」


夏侯覇殿の視線はなまえ殿に。人の熱とは気持ちがいいものなのか、車を降りるまでは辛うじてあった意識はもうなくなったらしい。耳に届く寝息に私まで眠気を覚えそうだ。


「定期便では満足出来ないのかな」
「わかってて言ってるでしょ、郭嘉殿」
「趣味じゃない」
「いやいやいや、子供の淡い想いは自由ですって」
「そんな秘やかな感情なら、相手が折れるまで粘ったりはしないと思うな」
「はは…うん、確かに」


噂の張春華殿に頼めばいいじゃないだとか、買い与える必要性を感じないだとか言ってみても無駄だった。あのままだと私が頷くまで店に居座りそうだったし、そんなの堪ったものじゃない。


「よかったなー、なまえ」
「…あなたは基本的になまえ殿の味方だよね」
「そりゃまあ、可愛い家族みたいなもんですし」
「なら引き取って」
「また怒りますよ、なまえ」


私を掴む腕の力が強まった気がするのは思い過ごし、かな。



20130611

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