曹操殿からなまえ殿を預かってからというもの、生活の中心が彼女になっている気がする。
朝には学校に送り届け、仕事終わりには車で一緒に帰る。弁当を選んで食事を摂って、なかなか髪を乾かさないから(ドライヤーが重いらしい)(何時も甄義姉様に乾かしてもらっているのだとか)乾かしてあげて、「お休みなさい」の言葉を受け取る。朝目が覚めたら布団の中に入り込んでいるから(もう諦めた)起こして、学校へ。何だろうね、この生活は。
「郭嘉、誰か来た」
「販売員じゃない?」
「郭嘉、チャイム」
「…ほっとけばいいよ」
「郭嘉」
「あーもうっ…!」
ピンポーン、ピンポンピンポン、ピンポーン。現在進行形で私を揺すっている小さいのが鳴らしまくったそれのような連打。繰り返すようだけど、なまえ殿を預かってから私の休日は壊されるものになったらしい。ああ、この土日は鍾会殿に押し付けて事無きを得ようと思っていたのに。寝室で呪いでもかけているのかな、この子。
「かくかあ」
「………出て」
「私が?」
「それ以外にいる?」
「…郭嘉」
「なまえ殿は偉いなあ、とても可愛くていい子だ。こんないい子は知らないなあ、私」
「行ってくる!」
「ちゃんとドアスコープから確認するんだよー」
はーいと元気な声がする。あんな大きな声、どうせ昼に近い時間だから迷惑ではないにしろ外の迷惑販売員には在宅だと知らせているようなものだよ。まあなまえ殿が買い物だ何だと言い訳をしてくれたらいい話なのだけどね。それくらいはわかっているさ、あのなまえ殿でも。だって曹操殿の娘だもの。
「………」
足音が聞こえない。行ったふりをしているだけで、私を観察しているのかな。特に心配もしていないけど、枕に押し付けていた顔を上げる。なまえ殿は、いない。
「……なまえ…、」
呼んでみようか、浮かんだその考えはすぐに消えた。私はいないんだ。買い物に行ってる、中にいると知られたら面倒でしかない。
「…………」
取り敢えずもう少しだけ眠ろう。そう決心して俯せると、それを妨げる足音に「郭嘉!」と嬉しそうな声。何だろう、足音が多い気がする。
「なまえ殿、静かに歩きなさいって前にも言った、」
「どうも。お久しぶりです、郭嘉殿」
「………は?」
「仲権ココア飲む!?」
「え?いや俺は、」
「郭嘉が淹れたの美味しいよ!」
何、これ。
20121117