15

「曹丕殿、拗ねていたよ」


ガサリと袋が擦れる。なまえ殿が唇を尖らせているのは、好きらしいからわざわざココアを買ってあげようとしたところ「郭嘉のじゃないと嫌!」と臍を曲げたからである。まあね、和食なんだからココアは合わないよね。茶はあったか、確か何処かに入っていたと思うけど、探してみないといけないか。


「あなたも拗ねているけれど」
「拗ねてない」
「そう」

持つと言って聞かないなまえ殿との約束は、エレベーターに乗るまでだったはず。まあ、いいか。どうせ渡さないんだろう。弁当を温めて私の席まで運ぶのが楽しいらしいし(昨夜無視をしたら機嫌を損ねた)、それくらいは目を瞑ろう。ご飯いらないなんて言われたら、それこそ困るし。

「確かに曹丕殿の顔は怖いけれど、慣れない?」
「…慣れない」
「何がそんなに怖いの」
「笑顔」
「笑顔?」


鸚鵡返しすると、なまえ殿は大きく頷く。以前「笑ったら好きになるか」と問い掛けたら思いっ切り否定したんだっけ。成る程、確かに怖がっているものを奨めたって意味がない。


「小さいときにね」
「今も小さいよ」
「幼稚園のとき!」
「はいはい」
「妙才叔父様に抱っこされたの」
「…らしいね」
「それで、遊んでたら兄様が帰ってきて。叔父様、私を兄様に渡したの」
「へえ」
「なまえかって、兄様笑ったの」
「それが怖かった、と」
「うん」


大泣きして、元譲叔父様が飛んできて、話を聞いた父様は笑って、それから。

俯いてぽつぽつと零すなまえ殿の声が小さくなっていく。なまえ殿の話によると、夏侯惇殿も必死に笑いを噛み殺していたらしい。


「…夏侯惇殿は怖くないの?」
「妙才叔父様と一緒に、いっぱい遊んでくれたもん」
「ああ、成る程」


確かに悪そうな笑顔だけど。曹丕殿も一緒に遊んでいたら、違ったのかな。



20121116

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