正しい思考回路などひとつとして存在しない

美しい、と言っても。この女性よりも容貌の優れた人は、間違いなく多い。にも拘わらず曹操殿が「美しい女だ」と称したのは、そして私が同意せざるを得ないのは、偏に纏う雰囲気なのだろう。

私に問い掛ける様、邸に入るよう促す手、ゆっくりと進む足。動作の一つ一つが人の目を引く。一人では忙しかろうと女中が離れないのは、やはり彼女という個を慕っているから。そして。


「馬は」
「大丈夫、繋ぎました」
「水を汲んで参りましょう。ここまでは遠かったのでは?」
「案内していただければ、私が汲みます」
「お客様ですのに」
「手間と思われる必要は。勝手を知らない私の案内の方が手間です」
「…ですが」
「水を飲むのは私の馬。それに、少し前に料理屋を出たばかりなので疲れてはいません。お心遣い、感謝致します」
「お優しいのですね、郭嘉様は。女性に好かれそう」
「優しい、ですか」


井戸はこちらに。
音にしながら示す手。この庭園には多くの花が咲いている。名前はわからないけれど、女中が主人のために姿を保っているのだろう。あまり、彼女に似合うとは思えないが。


「…花」
「花?ああ、とても香りのいい花で。私は好きなのですが、郭嘉様は?」
「不得手なもので。失礼ながら、あなたの印象にはない花ですね」
「そうなのですか?私が幼い頃、姦しいお前には明るいこれが似合うと言われて、それ以来」
「あなたが?…信じられないな」
「まあ、はじめて言われました」


両親と思しき男女は数年前に。大切な人が自分を重ねた花、視覚でなくとも嗅覚でそれを感じ、忘れぬように。娘の想いを知れたなら、ご両親も喜ぶに違いない。

「――…香りは確かに、今のあなたにも」
「本当に?…嬉しいものですね。両親が好み、選んだものを似合うと言われるのは」
「…親しくもなく、顔も知らぬ男の言では不安に思われるでしょうが」
「はい?」
「お手をお貸しいただけたらと。邸内とはいえ、お一人で歩かれるのは危ないのでは?」
「………」
「気を悪くさせてしまったのなら謝ります」
「…いいえ。言葉に甘えることが必要なのだと、嫌になるほど知っています」
「………そうですか」


私がこんな気分になるんだ。彼女はきっと、それ以上に(けれど見て見ぬ振りは、出来なかった)。



20120318

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