それは星が落ちた日

夏侯惇殿や荀イク殿では具合が悪い。曹操殿はそうおっしゃったけれど、私が日がな一日その女性を捜すというのも問題ではないのか。勿論、曹操殿からの達しがあればすぐにでも赴くし女性探索は見送りになる。私の仕事はこれだけではないのだから当然だ。

そして少々厄介なことに、「情報を集める過程ならば兵士や女官を使っても構わないが、女を尋ね歩く際には一人で」という決まり事まで設けられてしまった。曹操殿たっての願いであるから頭を捻っているというのに、これではまるで問答をしているようだ。やはり曹操殿の目的は、件の女性の確保ではない、ということか。


「ここ、かな」


料理屋で聞いた話によると、幾らか北に見た目にはそれなりの身分で、婚姻するにも充分に足る年齢の女性がいるとか。両親と思しき男女と世話役の女と共に邸にいたが、両親は数年前に亡くなった。今は女と二人、ひっそりと暮らしているという話。

詳しい場所は知らないが、取り敢えずは真っ直ぐ北に行けば見つかるだろうという言葉を頼りに馬を歩かせていたら見えた邸。庭の手入れは行き届いているから、時折人を雇っているのだろう。女の手だけで行っているようには思えない。


(…出払ってる?気配が)

噂通り静まり返った場所。邸自体華美ではないし、然程大きくもない。ただ、二人で暮らすには広すぎることは確かだ。まさか主人が掃除をするはずはないから、実質世話役の女一人で。私だったらやっていられないなあ、そんなこと。

「情か、若しくは相当の美女――…慕わずにはいられない人、だとか」


まあ、今日はそれと思しい邸を見付けたのだから充分だろう。一通り見てから曹操殿に報告して、また訪ねてみればいい。死んでいる、なんて不幸はないようだからね。


「美女を拝めないのは残念だけど、手の届く存在だと知れただけ…」
「――…どなた?」
「っ、」

邸の表、私と馬の音に反応したのか中から一つ声がした。慌てて馬を止めると、探るような足音は確かに私に向かって来ている。

「ごめんなさい、今は対応出来る者がいなくて。…あ。お構いは出来ませんが、お待ちになりますか?えっと――…」
「……ここに」
「ああ、…馬は、そうね。繋げる場所が…ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。わかりますので」
「では、お言葉に甘えさせていただきますね。あの」
「郭奉孝と申します」


ああ。
再び零れた得心の音は、私が聞いた限りで一番明るい、眼前の女性の声。曹操殿の言葉、料理屋での噂、そしてこの邸。それぞれが指す女性は、間違いなくこの一人の人だ。


「何とお呼びしましょう」
「郭嘉と、そう」
「承知致しました。郭嘉様、どうぞこちらへ」
「……はい」


私を導く微笑みは、成る程確かに美しい。



20120316

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