さいごのさいごまで、あなたは美しい人でした。さいごのさいごまで、わたしはいくじのない人でした。さいごのさいごまで、愛ゆえに涙するきょうでした

本当に、こんなにも腹を立てたこともなければ、男の苦しそうな顔を見たこともない。常にどうあるべきか、どのような態度で臨むべきかを意識して動いているというのに、今回ばかりはどうにもならなかった。


「――…そうは思わぬ、そうは」

涼やかに生きる姿も確かに好きであった。だが彼にも子供のように駄々を捏ね、声を荒げることをしてほしかったのだ。そう願った故の結果がこれとは少しも笑えない。何も、曹操の欲が身体を蝕んだとも時を早めたとも思いはしないが。

「あれは、ただの慰めだとでも」


双方にとってよい流れとなれば幸いと思ったのは事実、それが曹操の意思によってのみ施行されたのも、また事実。なまえと触れ合ったことにより確かに郭嘉は曹操が期待した片鱗を見せはした。しかしなまえは、どうなのだろう。

あまり他者との交流はないのだと彼女は言っていた。だから偶然であれ、曹操と出会えたことは嬉しいのだと。そんななまえが郭嘉に出会い、言葉を重ね。仕向けた事柄は、正しいと言えるのだろうか。


「郭嘉が望んでいた。故に、わしは」


取り返しのつかないことをしたのではないか。本当に正しかったのか。苦しむにしても、そんな苦しみを与えたかったわけではない。他者に対して余裕を崩さぬ姿勢をからかってやるくらいのつもりで、それだけではなく、なまえに触れることで新たな関わり方が生まれたらと。蝕むものは違えど、どこかしら似たような境遇のなまえを知ることが出来たら或いはと。


「それは真実とは異なるとでも――…」


思うように事が運ばず苦戦するのも楽しいもの、それを覆して驚愕し蒼白する敵を見るのは快感だと郭嘉は零していた。戦の醍醐味はそのまま女性にも通ずる、そうも言ってはいたが。

曹操は郭嘉のすべてを知っているわけではない。それでもなまえへ向ける想いが彼の信条に添っているとは思えなかった。だからこそなまえに対する己の、曹操の行動に違和を覚えたのだろう。


「嬉しくもあり、か」


人とは思えぬ慧眼を持ち、知謀をただ一人のために捧げる男。そんな男が同じ人間のように焦がれ足掻く姿は喜ばしかった。

欲が深すぎたのだろうか。手にした喜びを容易く消し去るほどに、失うものが大きすぎる。曹操自身が望んだとは言え郭嘉の支えにもなればいいと、心から。彼が抱えるものを軽くしてやれたらと。


「……おぬしは間違ってなどおらぬ。それを命じたのはわしよ、郭嘉」


彼の願いとは何であろう。それだけは何としてでも、叶えてやりたい。



20130524

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