しあわせをもらおう

今回の勝利は大きい。これにより曹操殿は天下へと大きな一歩を踏み出した。私はその手助けが、出来たんだ。


「あとは何の問題もありません。あちらから自然と首を差し出しますよ」
「そうか。ならば郭嘉、」
「久々に街に、いかがでしょう?」
「おぬしは…いいか、休め。休まねば暫くは監視下に置き見張っておくぞ。酒も女も、楽しめぬように」
「…それはあまりにも。今回は、私の功労が大きいとおっしゃったではないですか」
「言うたな。故に労いたいのよ」
「それならば」
「今は、休め。与えた任を忘れたわけではあるまい」


なまえ殿に会いに行く。曹操殿の命は喜ばしいような煩わしいような、何とも結論を出しにくいもので。頭を切り替えることは実に簡単だけれど、ふとなまえ殿を思い出すと次々と、連動するように溢れる感情や記憶がある。

情けない表情を浮かべる度に、失礼な話彼女に私の姿が見えなくてよかったと思うこと。彼女を慕わしく想う度に、私の顔を映してほしい、私の想いを知ってほしいと思うこと。触れる指先の熱や声色、他者よりもずっと敏感には違いないけれど、表情の動きから感じてはくれないかと勝手な考えが生まれては消えていった。


「その話は止しましょう」
「何故、そのようなことを口にする」
「私が私に失望するからです」
「それが人よ。おぬしは人ではないか、郭嘉」


そう、私は人だ。だから限られた生しか呼吸をすることが出来す、抗えないまま動きを止める。曹操殿の願いを、想いを。私の想いを受け切ることも捧げ切ることも出来ないままに。


「迷いも、苛立ちも、苦しみも。そのすべてがおぬしを人たらしめる。それに付随する喜びも、またな」
「だからこそ、生ある日々は美しい」
「うむ」

だからこそ誰かを想い生きていく。想う存在のために動き、微笑む。

「曹操殿」
「休むか?」
「…光栄です。曹操殿がこうして、私を想ってくださる。今を、その先を」
「郭嘉」
「はい」
「その物言いは、好かぬ。それではまるで」


曹操殿を、なまえ殿を。

想える心があるというのは、何と幸福なことだろう。



20130416

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