叶わないのなら先はない、そんなことはわかっていたはずなのに、言葉にされて初めて知ったような気分だ。すっかり乾いた墨、書き続けるなら新しく、けれど伝えたいことなんて、あるんだろうか。
「………」
竹簡に意識を向けて漸く自分が筆を持ったままであることに気付く。目に映る文字は数行にも満たないとはいえ、思わず自嘲が零れ落ちた。曹操殿に張遼殿、二人に否定をしたくせにこの様だ。沸き上がった苛立ちに、まるで投げるように筆を置く。
「――…拾われるのも面白くないし、焼けばいいか」
なまえ殿の名を記してもいないし、私がなまえ殿と過ごしたことを知っている人間だって少ない。これを見付けたところで誰に向けた文であるかの特定なんて出来ないんだ。だというのに、臆病が過ぎるのかな。
「…袁家が片付けば…」
それ自体に問題はないけれど、私に伸し掛かるのは曹操殿がおっしゃったことだ。袁家が片付いたら、片付いたとき、私はどうなっているのだろう。なまえ殿に会うほどの余裕は、あるのだろうか。
「…まったく」
生を惜しむ感情、言いようもない虚しさが心に巣くう。迷いと呼ぶべき思いはなまえ殿と触れ合うほどに強くなる。曹操殿だけを意識していればこうはならなかったのか、どちらか一方を断つことで生きられたとしたら。
「…私は夢想家だったかな」
すぐそこに終わりがあるからここにいる。何を選んでも悔いは残るんだ。違うのは、その大きさだけで。
「ならば私は、曹軍の人間として果てるのみだ」
だから馬鹿みたいな仮定は、必要ない。
20130316