なかなかむずかしい子のようです

どうしてこんなことになったのか。それを考えることがもう無駄っていうか、まあ考えても仕方がないってやつだ。しっかりとした挨拶は戦前に改めてって思ってたんだけど、捕まっちゃったらどうしようもないよねえ。


「それで、馬岱殿ならどうします?」
「どう。どうかなあ…」


視線を逸らしたって誰も助けてはくれないんだけど。ああもう、本当にさ、何で俺。確かに若に「酒を飲みたいから街に行きませんか?」なんて言ったら渋い顔されるに決まってるし、ホウ徳殿だって断るよ。でもさ、だったらお仲間の誰かを誘えばよかったじゃない。いや、俺だって酒は嫌いじゃないよ。だけどさ。


「郭嘉殿はつまり、あれですか。高貴な姫君に恋をしたとか、道ならぬ恋をしたとか…そんな」
「当たらずとも遠からず、ですかね」
「…はあ」

あれ、俺が聞いた二つって大して意味変わらないんじゃないかな。郭嘉殿は酒の効果か考え事が原因か、特に気にはしてないみたいだけど。

「えーっと…俺であることに、意味はあるんでしょうか?」
「と言うと?」
「俺じゃお役には立てないかな〜なーんて、ね?だってほら、郭嘉殿のことを知ってるわけじゃないし、正直今だって何でこうなってるのか…」
「私が持ち掛けた話、私を知っている人間である必要があります?」
「……いやあ、ない…ですね」


叶わぬ、叶える気もない想いがあって、でも忘れるなんて出来なくて。自分の選択が間違ってるなんて思ってもいない。そう吐き出した郭嘉殿は昼には似つかわしくない雰囲気を纏っている。郭嘉殿を知らない俺が言うのもなんだけどさ。


「馬岱殿になら理解してもらえそうだから、とか」
「えっ?」
「違いました?」
「俺に道ならぬ恋の覚えは…」
「あははっ」


溜まってる鬱憤を晴らすなら知らない人間、そういうことだろうか。俺は助言も出来なければ叱責も出来ない立場だから都合もいいのかもしれないし。一見すました郭嘉殿でも、ただ誰かに話を聞いてもらいたい気分になったりするのかな。


「郭嘉殿はその悩みの種を忘れなきゃって、思ってるんですか?」
「想い続けることは勿論自由だと思います。けれど、それは先があるからこそ抱ける欲で」
「叶わないなら先も何もないような――いっ、いいえ、何でも」
「…うん、確かにそれも言う通りだ」
「言う通り?郭嘉殿はあの、何を求めて…?」
「酒を飲みたい気分だったのですが、誰も付き合ってくれなくて」
「………はあ…」
「ありがとうございます、馬岱殿」


ありがとうって、何が。でもそんなこと聞ける感じじゃないよね、正直さ。



20130312

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