死を綴る午後

「顔色が悪いようですが」

刺すような響きに目を開けば映るのは不機嫌そうな陳羣殿。さて私は何かしたかと考えはしたけれど、彼の言葉を思い返すとそうではなさそうだ。何より私からすれば大したことはなくても陳羣殿には一大事、そんなことも多々ある。

「殿のため、と再三口にしているのにその体たらく。従軍はせずに休んでおくべきだったのでは?」
「曹操殿が必要としてくださっているんだ。私の才を、私を」
「ならば余計に。何故自分の首を絞めるのです」
「心配してくれている?」
「……いいえ」


実に不愉快そうな顔だと思う。そういえば陳羣殿はどこまで知っているのだろう。曹操殿の命とはいえ、ご立派な性格である陳羣殿が暫くの私の不在を快く思っているはずがない。問いからするに私の調子に関してはご存知のようだし、この苦言にも普段の苛立ちともう一つ、感情があるような(陳羣殿のそれを見抜けたところで嬉しくはないけれど)。


「殿のお気持ちを理解出来ない郭嘉殿ではないでしょう」
「過信しすぎではないかな?…それは勿論、ごまかしきれていないなあ、とは思うけど」
「一つを誰かに譲ったところで、釈然とはしませんが、殿の信頼が揺らぐことはないはず。ならば安静にしておくべきだったとは思わないのですか?」
「そうしたところで纏わりついた悔しさが消えるわけでもないし、迷わないかな」
「…郭嘉殿」
「陳羣殿、眉間の皺が消えなくなるよ」


終着点が明確になったとき、私自身が快くいるにはどうするべきかと考えてみた。曹操殿に看取られたいわけでも、なまえ殿に看取られたいわけでもない。あなたを慕わしく思っていると告げたいわけでもない。

告げたら後悔するのは私だ。どうして見えている終わりを前に、拭えなくなる跡を残す必要がある。


「――…陳羣殿って」
「何ですか?」
「私のこと好きだよね」
「嫌いですよ」


女々しいのなんて嫌じゃない。それこそ陳羣殿が、眉を寄せる。



20130303

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