何食わぬ顔を剥ぎ取れば

郭嘉殿が戻られたらしい。子細は知らぬのだが、何やら殿の命により暫く何処かに滞在していたのだとか。悩んでいた様子であった上に私に相談。あまり見られない郭嘉殿の様子が気になってはいた。多少はよい方へと向かっていればよいのだが。


「答えは見つかりましたかな、郭嘉殿」
「見つかってはいる、かな。何処かしらで腑には落ちていないみたいだけど」
「それは難儀な」
「…ありがとう」


謝辞を口にする割に郭嘉殿の表情は晴れない。釈然としないそれは私に対してのものなのか、見つけたという言葉に反して郭嘉殿に伸し掛かっている感情に引き起こされたものなのか。まあ、親しくもない人間に土足で踏み込まれるのはさぞ気分の良くないことであろう。私とて、郭嘉殿の立場であれば不快に思う。


「ありがとうとは」
「真面目に考えないでよ。私が馬鹿みたいじゃない」
「やはり嫌味でしたか」
「張遼殿ってさ、……まあいいや、馬鹿らしい」

自暴自棄、ではなく。やさぐれているに違いないが、郭嘉殿には自我がある。己を見失ってなどいない。

「女々しくならないように、愚痴ったれないように顔を合わせなかったんだ。それなのに、曹操殿にそうすることを望まれるなんて。…まったく、何なんだろうね」
「はあ」
「それになまえ殿だって、私がどんなに喚こうが気にもしないんだろうし。寧ろ、そうなることを喜びさえするかもしれない」


ここまで感情を吐露するとは、郭嘉殿は相当心労しているのだろう。なまえというのがどのような人間なのか私にはわかりかねるが、郭嘉殿にとって大きな問題になる存在であることは察した。それだけで、彼にとって殿と類似した感情を抱く相手であると理解が出来る。


「文もそう。そんなものを送ってしまえば枷になるのは確実だから避けたのに」
「それは、そのなまえという方の?」
「なまえ殿のであり、私のでもある枷だよ」
「…何故、郭嘉殿の私情を私に」
「……何でだろうね」


苦渋の表情など戦でも見たことがない。それを容易く引き出すなまえとは、何者なのだろうか。



20130227

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