君が精一杯生きようとする限り、この世界は君のものだ

「どうであった」
「とても穏やかで…どう過ごすか、迷ってしまいましたね」
「それもたまにはよかろう。酷使ばかりでは身体も言うことを聞かぬぞ」
「ああそれから。何も考えるな、というのは却って難しいものだとも痛感しました。普段は曹操殿から意見を求められるものですから、働く癖がついてしまっているようで」
「おぬしであれば、まず間違いはないのでな。…ふむ、そうか。おぬしはそう返すか」


唇を持ち上げた曹操殿は予想通りというべきか、あまり好意的ではない表情を浮かべている。短くはなかったろうなまえ殿との日々、曹操殿が私に求める答えとは、何だろう。


「…何だか、含みのある言い方ですね」
「何を疑う?」
「曹操殿はなまえ殿を知りながら言わずにいたでしょう?また何かあるのではと、そう考えるのも自然では?」
「確かに。違いない」


時折、曹操殿は親のような反応や想いを向けるものだから。友のようでもあり当然主である存在への想いというものは計り知れず、それは異性を想う感情に近くもあるのではないかと感じるくらいだ。まあ実際になまえ殿のことを考えてみれば、胸を占める感情は異なるのだけれど。


「おお、そうよ郭嘉。文を書いてみるといい」
「文ですか?」
「世話になったのだろう。礼節のうちではないか」
「確かにそうですが――…またの機にします」
「…珍しいこともある。おぬしが女に対してそのような態度を取るとはな」
「女性に対する策というものもある、曹操殿ならばご存知でしょう?」
「否定はせん。…だが、なまえに策は必要か?」
「曹操殿、あなたよりも私の方がなまえ殿に詳しいとは?」
「そうであれだ、郭嘉」


女性に関して語らうときは大概が嬉々とした響きを持つ。揃って好む話題であること、公務を離れた立場で語らえることが大きいだろう。けれど今の曹操殿には、その様子が見られない。


「おぬしは、伝える術があるうちに憂いを断つことも重要とは思わぬのか?」
「思いますよ」
「ならば茶化すな」
「何時になく真剣に、いや、そうして向き合ってくださることも多々ありましたが」
「郭嘉、足掻くことは醜いばかりではない。時にそれは局面を打開する力になり得る」
「……ええ。理解はしています、十二分に」
「郭嘉」
「理解はしていても、実行する人間が納得をしていなければ意味がない。…そういうものです」


それで幸福が約束されるのなら、躊躇いなんて。



20130223

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