撫でてやるのも様子を見るのも久しぶりではないけれど、走らせるのは久しぶりだ。余程嬉しかったのか、愛馬は私が手綱に手を掛けると反応を見せた。
素直に感情を露わにするところはよく似ている、いや、こっちの方が素直かもしれないね。意固地は言い過ぎであれ、なまえ殿は己の想いをありのまま形にすることは避けている。まあ人は成長するもの、何時までも子供のように無垢ではいられない。感じたことを偽らずに口にする勇気は自然と失われて当然だ。
「さて、行くとしようか」
挨拶をしなくては。発つ日を告げて以降、なまえ殿に会う気になれず部屋で過ごしたのだし。眠る前に思い直したものの、結局足は動かなかった。
「……何を選んでも残るのであれば、顔を見て言葉を交わす方がいい。少しだけ、寄り道をするとしよう」
そう告げて撫でてやると愛馬が嬉しそうに鳴く。後押しなのか触れられたことへの喜びか、この際それは、どちらでもいいかな。
20130103