愛すべき君の体温

差し込む光に敏感に反応した身体は何かを探るように身じろぎする。全身は痛いのだけれど、私を支配するのは心地好い熱に包まれた感覚だ。


(朝、確か私は、)

泣いていた。なまえ殿にもそれを知られて、そう、なまえ殿。改めて熱をより近くに抱き寄せると、昨夜と変わりなく華奢な身体は私の腕の中にある。

「――…なまえ殿」


明らかに強張っているから目が覚めたら私以上に痛みを感じるのではないかな。それを可哀相だと思いながら、私を意識するが故の緊張なのだと思うと気分がいい。怒られるだろうか、これは。


「そうか、私は」

別段事に及びたかったわけではなく、ただなまえ殿を感じられる場所にいたかった。母親を求める幼子と言えばいいのだろうか。

「――…子は、母に対してこんな感情は抱かないか」


肉親として恋しく想うそれではなく、他者として、異性として惹かれる心。昨夜なまえ殿がそうしたように私も彼女に触れてみる。人の持つ熱に大差はないだろうに、なまえ殿の体温は容易く私を満たしてしまうのだから不思議だ。


「悪くはない、幸福だとさえ思っているよ、ちゃんとね」


寝台で休ませてあげよう。本来はこの上に寝転んで身体を休めるのであって、背もたれにして使うものではない。日はもう昇っているけれど、ここにいるうちは怠惰な生活を送っても眉を顰める人間はいないんだ。私も部屋に戻って眠ればいい。


「お休み、なまえ殿」


ここを出たらまずは女中の説教か。まあ、陳羣殿程ではないと思うけど。



20121019

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