「何を書いている、孟徳」
「見ての通り書簡であろう。わからぬか?」
「そんなことは知っている。他の者を働かせておいて、お前は女に現を抜かしているのかと聞いているんだろうが」
「女か。実に夏侯惇らしい疑惑よな」
「何?――…郭嘉は」
「さてな」
「……孟徳」
呆れたという言葉以外はないとその音は語る。どうにも彼は曹操の私室を訪ねた際に見掛けた花、あれから至った女という発想に合点がいったらしい。どちらにせよ呆れてはいるが、比重は曹操ではない男に置かれたようだ。
「お前にも郭嘉にも呆れて物が言えん。今がどんな局面かわかっているだろう」
「なればこそ選択したのよ。何、郭嘉には働いてもらう。上の空で従軍されては迷惑でな」
「…そうさせたのはお前ではなかったか?孟徳」
「心情はわしにはどうにも出来ん」
「よく言う」
珍しく郭嘉は悩んでいるようだったと曹操は思う。女関係だけに限ったことではないが、享楽を好む彼は曹操に対し焦りを見せることが少ないのだ。そんな男が一人に悩み、苛立ち、心を覗かせる。いいものではないか、可愛らしくすら見えてしまう。
「郭嘉がどのような答えを出すのか、実に楽しみなことよ」
「その女のことは詳しくは知らんが、郭嘉でなければならん訳があったのか?」
「どう触れ合うのか興味があった。今のあやつが彼女を知り、何を選ぶのか気になってな」
「道楽に使うな」
「そうでもない」
みっともなく足掻くのもいいものだと、そう思わせてやりたいのだ。
20120810