張り裂けそうに、みしみしり

私が頷くと郭嘉様が笑った気配を感じる。郭嘉様が私を、それが自分の中で明確な形を作ると、自然と鼓動が高鳴った。


「なまえ殿、嫌なら断っていいんだよ」
「嫌がる必要など」
「――…折角そう言ってくれたのだから、疑うのは失礼だね」


肩に触れた郭嘉様の掌に両親を思い起こし胸が詰まるけれど、両親に対してこんな感情は抱かない。郭嘉様が触れてくださる度に強くなる心音は両親に覚えた安堵とは異なるものだ。郭嘉様にも安堵は感じる。ただ郭嘉様に対しては、安堵の他にも抱く感情があるだけで。


「言葉を探している?」
「…はい」
「無理に話す必要はないよ。何も言わなくても、ここにいてくれたら」

耳元で響く郭嘉様のお声。体が震えてしまいそうで、思わず郭嘉様の衣服を握り締める。

「なまえ殿にとって、私は安心出来る存在かな」
「緊張するばかりです。…安堵も、いたしますが」
「そう」


ここはとても静かだ。加えて郭嘉様と私の声以外は響かないものだから、二人だけが取り残されたような錯覚に陥る。もし本当にそうなったとしたら私は、どう感じるのだろう。


「…上手く言葉に出来ません」
「なまえ殿は駆け引きには向かないね」
「必要のない生活を送って来ましたので」
「責めてはいないよ。私だってあなたと駆け引きをしたいわけではないのだし」


熱が遠ざかると一気に寒くなったような心地がして、まだ触れ合ったままの手に力を入れてしまった。郭嘉様がどのような反応をなさっているのかはわからない。けれど恐らく、呆れてはいないはずだ。


「こういうのも悪くない。あなたがこうして反応を示す度、そう思える」
「…感謝を申し上げるべき、ですか?」
「私が決めることではないよ。女性が魅惑的であることは揺るぎないけれど、うん。曹操殿には多くのものをいただいているね、本当に」


郭嘉様から零れた曹操様の名は好意に溢れていて、郭嘉様のあるべき所を表している。私にはそのお心は見えないけれど、郭嘉様が最後に選ぶのは曹操様であることだけは汲めたような気がした。それに対しての感情はとても穏やかで、却って私を選ばれては困惑してしまうのかもしれない。


「こうして過ごす時をくださったことに、感謝しなくては」
「郭嘉様、何か」
「人は有限の中を生きている。――…だからこそ美しく見えるのかもしれないね、何事も」


言葉尻に滲む愁いの原因は私だろうか。郭嘉様を患わせることを望むはずがないのに。不安に駆られて体を寄せたけれど、変えることが出来たのかはわからない。



20120706

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