どうやら僕達は互いに恋をしているらしい

彼女を不安にさせたくないという想いと少なからず存在している下心。別に大それた野望を抱いているわけではないけれど、この手をずっと握っていられたらと思う。幸いそれを望んでいるのは私だけではないようで、繋がった掌から伝わる力は確かに私を求めていると感じられた。


「郭嘉様はこういった場所を好まれるのですか?」
「静かな、ということ?」
「はい」
「賑やかな街も好きだよ。何か練る場合には、誰にも構われないような場所がいいとは思うけど」

なまえ殿が逡巡したと気配でわかる。なまえ殿を連れて来たのは私自身の意思なのだから、気に病むことはないというのに。

「なまえ殿は苦手かな?」
「楽しいとは思いますが、不安にもなります」
「うん、邸の周囲は静かだからね」
「街の喧騒など、久しく味わっておりませんから」
「私もこのところはない気がするよ」
「寂しいですか?」
「少しも。あなたがいるからかもしれない」


今度は息を呑んだ。成る程、人付き合いの少ない彼女にはあまりない経験なのだろう。どういった言葉を返すべきか考えている、その表情が見たくて振り返るとなまえ殿は微かに眉を寄せていた。笑ってしまいそうだ、勿論嘲笑ではなく、微笑ましくて。


「郭嘉様?」
「どうかした?」
「…いいえ。何だか、童のような気になって」
「そんな扱いはしていないよ」
「そうなのですか?」
「信じていないように見えるなあ」
「あまり信じておりませんから」

不機嫌そうに響く声に覚える感情。抱きしめたいと思ったのは衝動で、それでも思いの外強固な自制が躊躇いを生む。

「……なまえ殿」
「はい?」
「あなたを抱きしめたいのだけれど、構わない?」


我欲をぶつけて怖がらせるのは本意じゃない。なまえ殿は曹操殿に託された女性で、私にとっても、大切な存在なのだから。



20120703

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