何を越えれば愛なのですか

ゆっくりと馬を歩かせる。
今すぐにでも彼女の顔を見たいと思うのに、促すこともなければ焦りが湧き上がることもない。別に会うことを恐れてはいないし、曹操殿や彼女に苛立ちを覚えているわけでもない。気が重い、というのも少し違う気がする。

例えば彼女が私を待ち望んでいたとして、私に気がついて笑ってくれたら。その身体を抱きしめたとして恐れることなく、躊躇うことなく受け入れてくれたら。そうしたら私は、何を追求するでもなく変わらぬ言葉を吐くのだろう。


「素直に言葉にしてくれると思う?」

馬に聞いているのだろうか。当然答えるはずがないとわかっている。ただの気紛れ、もしくは独り言にすぎない。

「…謝るかな。辛そうな顔をする?」


そうして心を痛めるほど、私と彼女は深い仲だろうか。長い年月を共に歩んではいない。どんな時を生き、過ごして来たのかも知らない。互いに優先すべきものだってある。そう断言出来る相手が、私を気に掛けるものなのか。

僅かな曹操殿の発言を汲み取れば、なまえ殿は曹操殿と何らかの繋がりを持ち私と接触しているということで。少なくとも私よりも曹操殿を、曹操殿の言葉を貴ぶべきとしている。それは私だって同じだ。なまえ殿と曹操殿であれば私が選ぶべきは曹操殿、誰に縛られるでもなくそう言える。


「私からの贈り物を私からとして喜んでほしいのは本当だし――…言ってもいい、ということだよね。恐らく」


謝ってほしいなんて思わない。私も私のためではなく曹操殿のためになまえ殿と会っていたのだから、なまえ殿が曹操殿に言われて私と触れ合っていても責められた立場ではない。


「曹操殿はどうして、私となまえ殿を会わせようとなさったのかな」


馬の歩みがますます遅くなる。そうか、もうすぐ彼女の邸。私が覚えているように愛馬もまたこの景色を覚えていたらしい。両手で足るくらいしか顔を合わせていないはずなのに、彼女に向いている意識の強さについ自嘲してしまう。


「――…あ」
「やはり郭嘉様でいらしたのね。ふふっ、そうではないかと思って、つい出て来てしまいました」
「…こんにちは」
「はい、こんにちは」
「なまえ殿」
「どうなさいました?」


柔らかな微笑み。
私の欲目か、とても幸せそうに見える。


「こんなところで不躾ではありますが、耳飾りを差し上げたいのです。…受け取っていただけますか?」
「私に?」
「なまえ殿以外の誰に」
「郭嘉様は人気が、私以外にもいらっしゃるでしょう?何も私である必要は」
「なまえ殿のために選んだのですから、なまえ殿でなければ」
「………私は、見えませんから。着けていただけますか?郭嘉様」
「……はい、喜んで」


ただ今はその熱に触れて。尋ねるのは、それからでもいい。



20120506

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