淡い色で色づく恋慕

意識を集中してみると思いの外気付くものらしい。この足音は曹操殿、しかし判別が出来たところでなまえ殿への説明が浮かぶかと言えば、それは違う。


「曹操殿」
「やはり、人を惑わせる化け物の類か?生を抜かれたような顔をしよる」
「昨晩は酒を」
「ほう、どうにも嘘が下手になったらしい。昨日のおぬしには、そのような気力もなかったろうに」
「おや。疲れた時にこそ上手い酒では?」
「…頷いておくとしよう」


取り敢えずは話を合わせるというように唇を持ち上げた曹操殿。それになるべく違和のない笑みを返すと、曹操殿は不意に表情を引き締めた。袁紹の残党だが、吐き出された名前は、曹操殿にとって旧友と呼ぶべき存在である。

差し当たって障害となるのは袁家。先の戦では勝利を収めたけれど、彼の息子は生きている。劉表を頼り新野に向かったという劉備、あの男は今後どうなるか。劉備は曹操殿が執心している関羽の義兄弟であり心身を捧げる存在。関羽の他にも張飛という豪傑が付き従っていて、彼も同じく義兄弟だ。さて、舌を巻く程の吸引力は何処から溢れてくるのやら。あれは警戒して然るべきだろう。


「袁紹の兄弟は元々不仲。固くない結び目は、容易く解けるものです」
「あの軍勢を崩した後であるからか、不思議と恐怖はないな。その言葉にも素直に頷ける」
「それは重畳。…曹操殿が化け物とお疑いの女性ですが」
「聞こう」
「名をなまえ、歴とした人間ですよ」
「名を聞き出したか。流石は郭嘉よなあ」
「…ご存知でしたか?」
「いいや」


落ち着きのある声、慣れない人間であれば畏怖を覚える声とも言えるか。決して、穏やかになるような音ではない。


「曹操殿を覚えているかは、まだ。特徴を考えて来いと言われてしまいました」
「特徴?わしのか」
「ええ。存外浮かばぬもので、未だに悩んでいます」
「特徴なあ。…しかし、郭嘉よ。次に会う約束まで交わすとは」
「曹操殿のお心が彼女を求めるならば、私は従うのみですから」
「さて。それが覆るのは何時の日か」


心底愉快そうに笑う姿に、関係などまるでない頬に触れたなまえ殿の手を思い出す。悪戯っぽい微笑み、驚きから恥じらいに変化する表情。曹操殿を見ていて何故思い出したのかはわからない。けれど。


「…確かに。私個人の心が会いたがっているのも、事実ですね」


不意に手を伸ばしたくなることだけは、嫌というほど理解出来る。



20120408

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