追いかける

※男主

一瞥する瞳は、鋭く冷たい。
張文遠という男は元来そうであり、別段その眼光で他者を射殺そうとしているわけではない、ということだけは確かである。

于禁とはまた違った意味合いで恐れられる男。まあ于禁や張遼に限らず、曹軍の者は主たる曹操を始め、多くの人間を震え上がらせてはいるのだが。


「腰が抜けたか」
「いっ、いいえ!」
「……ならば、杖となっている槍を本来の用途に戻すのだな」
「…………」


所謂、直談判。
駄々を捏ねたと言っても過言ではない。そこまでして張遼率いる軍団に編成してもらったというのに、この有様。賈クにちくりと一言をいただきそうではないか。

ついて行くことに必死で、鍛え上げられた者達との実力差をただただ痛感する。
いいのは威勢だけとは情けない。
情けなくて悔しくて、恥ずかしくて堪らない。


「――…馬鹿げた、不快な問いであることは承知なのですが。……何故、お強いのですか?」
「私がか?」
「申し訳ございません、不躾に」


張遼に気にした様子は見られない。ただ思案する様子は真剣そのもので、不快でないからいいと言えるものでないことは、確かだ。


「……強くありたいとは思っている」
「ありたい、ですか?」
「貴公の、皆の思いとなんら変わらぬということだ」


張遼が立ち止まったことで自然となまえの足も止まり、瞬間、攣ったような感覚が全身を駆け巡る。

思わず眉を顰めると張遼は、何故だか嘲笑ではない笑みを浮かべた。
自分を通して何かを見ているのではと、そんなことを、思ってしまう。


「貴公が私を目標としてくれているように、私にも目指す存在があってな」
「張遼様が?張遼様以上の、武人が……」
「どれだけ駆けようと、未だにその背すら見えぬのだ。頭には鮮やかに残っているというのに、影すら」
「………」
「今の貴公が、まるで私のようでな」


その背を見逃さぬようにと、それだけで精一杯で。

それが自分のようだと、張遼は言う。なまえが飽きもせずに張遼を追い憧れつづけるように、張遼にもまた追いつづける人がいる。

なまえは知らぬ、張遼に残る人。
どんな人間なのだろう。張遼は古くから曹操に仕えていたわけではないというから、それ以前に出会った人間なのだろうか。


「貴公も、胸にある思いを持ち続けるといい」


何時かその背をふらつかずに追えるようになったとき、並ぶことが出来るようになったとき。


「――…はい」


張遼の見るものを、自分も見ることが出来るのだろうか。
宿る思いを、理解することが。

20131204

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