しゃがみ込むには大きな身体、あまりに不似合いな光景に、思わず足を止める。
尋ねるにもあまり話したことのない相手だ、どう声を掛けたものかと悩んでしまう。彼はまだ傘下に加わったばかり、それを除いても、寡黙なのだ。
「…………」
「…………」
気にはなるが、広い背に隠されてまるで見えはしない。そこまで執着があるわけではないから立ち去ってもいいけれど、怪我や体調不良だとしたら問題だ。
やはり声を、ならば、名前を呼べばいいのだろうか。
「――…あの、ホウ徳殿」
随分と控え目になってしまった。
聞こえただろうかと気にもなったが、その背には反応が見られて杞憂と知る。彼が振り向いたと同時に何か音がした、ような。
「……これは、なまえ殿」
「何をなさっているのですか?」
「特には。某がこうして屈んでいた故、妨げとなっていただろうか?すまぬな」
「いえ、別段通行には――…私がただ立ち止まっただけなので」
「そうであったか」
「はい。……?」
また、音。
なんだろうか。少しだけ体をずらして、ホウ徳殿の手元を覗き込む。彼も隠すつもりはないようで、私が動いても気にした様子は見られない。
「あ」
「…………うむ。困ったものだ」
「誰かの――…にしては、毛につやがないか」
「恐らくは、迷い込んだのだろう。何処からなのかは、わからぬが」
「疲れたのでしょうか。まるで逃げる気配がない」
音の正体は、子猫。
ホウ徳殿の手元だからか実際にそうなのか、確かに子猫なんだけど、とても小さく見える。疲れているというよりは、ホウ徳殿に懐いているのだろうか。撫でられると気持ちがよさそうだ。
「怪我は、ないようだ」
「お腹は空いているのでしょうか?」
「どうであろうな。ここに残しておくのも憚られ、動けずにいたのだ」
「……心配だったのですか」
「変、だろうか?誰かが見つけ、つまみ出されでもしたら困るのでな」
「…………」
子猫に落とされる視線は真剣そのもので、ホウ徳殿が心から案じていると知ることが出来る。
その目にした一面があまりに意外で、言葉が出ない。寡黙と冷たいは確かに一致はしないけれど。
優しい、温かい、だろうか。果たして私はここまでするだろうかと、ふと思う。
「なまえ殿?」
「ああいえっ……でしたら、私が食料を持ってきます。水も必要ですね」
「それは――…すまぬ、気を遣わせてしまったな、なまえ殿」
「いいえそんな!えっと、お気になさらず!」
驚いた。
間違いなく今、ホウ徳殿の口元は緩んでいた。
20140210