※男主/エンパ設定
王異という人間に対する印象は、まああまり、好ましいと言えるものではない。
事情も知らずに非難するのも愚かとはいえ、その怨みがましい視線や、自分に向けられているわけではなくとも突き刺さる刺々しい言葉が、どうにも。
あくまでもなまえの基準ではあるが、それがとても華奢な女人とは思えず、一歩二歩と引いてしまう。
またそれを酷いだ最低だと喚くような元気さがあれば親しみやすさも覚るのだが、彼女は一切口を開かず作り物のようにじっと聞いている。最早あれは、聞いているのかもわからないが。
まあともかく。
なまえは積極的に王異と関わろうとは思わなかったし、気に障ることさえしなければ、何故だか美しく感じる鬱屈とした瞳に追われることもない。
彼女は稀に同じ戦場に立つことのある相手、言わば同僚。それだけの相手だ。
「なまえ殿だからかしら」
瞳は遠くに向けられたまま。
なんでもないことのように吐き出した王異は、淡々とした口調の通り微塵もなまえを気にしていない。
なまえも無言を貫くと、ゆらりと王異の視線が動いた。確かにまあ、見ていたなら答えるべきだったかもしれない。それにしても、「はあ」やら「何が?」くらいしか、ないのだが。
「考えずに進めるの。二人だけの任務ははじめてだけど、問題なかったわね」
「……とは言え、私も知を司る人間ではありませんが。王異殿の方が、どちらかと言うと」
「頭の話じゃなくて。……黙っていても呼吸を感じるって言えば伝わる?迷わなくていい、怖がらずに――…なまえ殿なら、私を見逃さない。必ずこの目に映る場所にいてくれるから」
「……そうですか?」
「私が気がついたときは、だけど。でも、それでいい。充分よ」
それだけ告げると王異は再び先を見る。
もうその双眸になまえは映っておらず、返答の機会は失われた。
王異はなまえを気にしていないどころか、見てもいない。なまえもまた。
そう思っていたのだが、王異の言葉によると、どうにも違うらしい。王異はなまえを見ているし、なまえは王異を常に案じていると。そう、聞こえてしまう。
「…………知りませんでした」
「私も、なまえ殿を見るようになってから知ったもの」
「そうですか。……はい?」
「目が離せないの、なまえ殿の全てから。だからなまえ殿が私を片隅にでも意識してくれていることが幸せで、嬉しくて堪らない。こんな私の傍にいてくれる、守ってくれることが本当に、嬉しい」
「………………」
言葉の意味が理解出来ず、つい王異の横顔を凝視していると、唇が柔らかな弧を描く。常に鬱屈としている瞳には優しい光、と言うべきか。普段の王異からは感じられぬ感情が宿っているではないか。
「――…この身を置く国も、だけど」
「えっ?」
「なまえ殿も、絶対に失わない。なまえ殿がそうしてくれるように、私も見逃さないわ。一緒に守っていきたいって思うもの」
「…………」
「帰りましょう」
「あ――」
向けられた微笑みに息を呑む。
今、何を告げようと、したのだろう。
20130919