輝く

※男主

「おはようございます、なまえ様」
「あ――…これはっ、おはようこざいます、蔡文姫殿っ!」


得物を握る手に力が入る。
吹き出した汗は鍛練時よりも多く、手汗まで掻く始末だ。

この恥ずかしさは裏返った声を聞かれたことになのか、蔡文姫殿が目の前にいるからなのか。はたまた、お声掛けいただいたからなのか。

彼女の優しげな表情を目にすると、どうにも言葉が閊えて上手く話せなくなる。


「鍛練をなさっていたのですね」
「あ、ええっ、はい!……蔡文姫殿は」
「詩を巡らせておりました。この中を歩くだけでも刺激され、様々な想いが溢れ出すのです」
「ああ!そうですね、人の動きが活発ですから…………噂話も聞こえますし」
「まあ。確かにそれも、趣の一つかもしれませんね」


終わってしまった。
それ以上口にすることは特になく、さてどうすべきかと繰り返す頭の中が騒がしい。蔡文姫殿にはこの沈黙や遠くの声ですら、詩になるのだろうか。


「…………本日は、日がよく照っておりますね」
「ああ、そうですね。時折頬を撫でる風も気持ちがよくて、漫ろ歩くだけでも楽しくなります」
「はい。私には涼しいくらいで」
「体を動かした後は、特にそう感じるかもしれませんね」
「ええ、まったく。……しかしまあ、陽光はもう少し落ち着いてもいいかなと、思いますが」
「えっ?」
「――…えっ?」


普段よりも眩しい光。暑さを感じないとは、余程風が涼しいのだろう。
これ以上間抜けな姿は見せまいと、そんなことを考えながら言葉を紡げば、蔡文姫殿は心底不思議そうに瞬いている。思わずこぼれた声は、結局どこか、ひっくり返ったような調子だ。

蔡文姫殿がお辛そうでないのは幸いだが、何か妙なことを口にしてしまった、だろうか。


「感じ方はそれぞれでしょうが、それほど強くは。――…なまえ様、もしや休息をせずに鍛錬をなさったのでは?いけません、そのままでは倒れてしまう可能性が。……お水をお持ちいたします」
「そんな、蔡文姫殿のお手を煩わせるわけには!だ、大丈夫、加減を考えて引き上げましたので!」
「なまえ様、ご無理はなさらないでください。それくらい、なんでもありませんから」
「本当に、なんの問題もないんです。こちらこそご心配を――…あ」


確かに、今日は日差しが強く眩しいと思った。しかし考えてみれば今日は、ではなくて。

目の前にいる、僕を案じる心優しい蔡文姫殿。ああ、そうか。


「…….えーと、その。風も光も、おっしゃる通り丁度いい、間違いなく。…………はい」


眩しいのは、そう。
理解をすると、ますます頭が騒がしい。

20140217

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -