※撫でる

※現代

最後、これが最後だ。もうこれを逃したら、気軽に会うことは出来なくなってしまう。友達には一声掛けたし、何より随分と前から宣言していたのだ。いってらっしゃいと送り出されて、気合いは充分。

ところが、職員室にその姿はなかった。
恐らく生徒に捕まっているのだろう。部活の顧問でもあるし男子に大人気だったから。特に体育会系の、積極的に突っ込んでいくタイプの男子に。


「先生!孫堅先生!」
「おお、なまえか」
「卒業ですよ、私。明日からもう来ないんです。寂しいですか?」
「なんだ、畳み掛けるように。そうだな、寂しいかもしれんな」
「かも?」
「式でお前の名前が呼ばれたとき、卒業生だったなと感じたくらいだ」
「……それ、別に寂しがってないと思うんですけど」


何で先生が花束持ってるんだろう。部活の生徒にもらったのかな。しかし好都合、出会った先生は一人だ。


「お前も教え子の一人だ、思うことくらいはあるぞ?」
「えー?孫堅先生のことはすっごく尊敬してますけど、なんか今回は……」
「何か言ったか?」
「いいえー」


まあでも、寂しいと言ってもらえただけでもいいか。会いに来た甲斐はあったと言える。孫堅先生は担任でも学年主任でもない、ただの教科担当の先生なんだから。

印象付けたくてテストを死に物狂いで頑張って、わからないところがあればすぐに聞きに行って。無駄じゃなかった、あの日々は。


「――…孫堅先生」
「ん?どうした?」
「私、頑張りました。頭撫でてください」
「頭?子供のようなことを言うな、急に」
「褒められるのはいくつになっても嬉しいんですよ?ほら、怒られるのは嫌でしょ?」
「ははっ、違いない。……なまえ、三年間よく頑張ったな。見事な成績を収めてくれて、俺としても嬉しいぞ」
「自慢の生徒?」
「そうだな、自慢だ」


この三年間は勉強に力を入れて、せめて孫堅先生の担当しているクラス内では一番頭のいい子になりたかったんですよ。

だって孫堅先生のこと、大好きなんだから。


「あ、あとアルバム!一言書いてください!」
「お前もか。もう散々書いたというのに……仕方あるまい、書いてやるか」
「やった!お願いしまーす。あとあと、もう一回撫でてください!」
「まったく……そんなに寂しいのか?卒業するのが」
「はい!」
「その割には元気な返事だがな」


乗せられた手を掴んでしまいたい、じっと目を見詰めてみたい。楽しそうに子供の話をする先生を見ていると、そんな言葉は出てこなくなってしまうけど。


「寂しくて死んじゃいますー」
「聞こえんと言っているだろう」


本当に寂しいんですから、色々と。

20140303

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