信じる

懐かしむ続編

「よう、怪我は平気か?」
「――っ、殿っ!?」
「あー、気にすんな。そのまま楽にしてていいぜ」
「しかし、」
「大喬がな。何かあったら、心配するからよ」


大喬。
その言葉に私は思わず、殿の後方に目をやった。

初めて治療をしてもらってから暫く、完治するまではと大喬は毎日顔を見せに来ている。正直なところ、彼女が大袈裟過ぎる節はあれ楽になったのもまた事実。今はそう日をおかずに戦に出られるだろうところまで回復した。

話によれば薬士に頭を下げてまで治療法を学んだようで、そんな大喬の心に私は少しばかりの優越感も抱いたのである。誰に対して、とは言わないが。


「顔色、良くなったなあ。なまえが死んだらどうしようって、大喬のやつずっと暗い顔しててよ。それで様子を見に来たんだが、まあ安心だな。少なくとも死にはしないだろ?」
「大喬様ばかりか殿にまでご足労いただきまして――…この通り、回復しております故。間もなく戦にも出られるかと」
「そっか。けどま、治っても大喬が頷かないと無理そうだけどな」
「…………ご心労を」
「俺も驚いたぜ。真剣な顔してるもんだから何かと思えば、なまえの世話をさせてくれだ。知り合いだってのは知ってたけどよ」


顔が熱くなる。一体、大喬は殿になんと言ったのか。殿はどの程度まで私のことをご存知なのか。

知られて困る経歴があるわけではないが、誇れる経歴だってない。ただ姉妹の笑顔が好きだから、父や兄の真似事をして気取っていただけで。

そんな昔話を、殿に話していたとしたら。


「…………」
「何だ?妙な顔して」
「いやっ、……なんとも言えぬ気恥ずかしさが」
「恥ずかしい?」
「…………何人にも打ち砕かれぬ盾になるのだと、心に決めていたのです。大切なものが、曇らぬようにと」
「別に恥ずかしくはねえだろ、それがなまえの強さになるならな」
「…………子供のような意地が恥ずかしいのです」


私が守るのだと勝手に闘志を燃やして。
誰も何も言っていないのに、昔からそうだからと動かずにいた。大喬には私が、私こそが必要だなんて。ほらみろ私の方が活躍しているなんて、立場も考慮せずに。大馬鹿だ、幼いやつめ。


「とっくに強くなって、私でなくとも心から想う存在は出来ているというのに――…まったく子供なのです、私は」
「俺だって、意地張ることくらいあるぜ?流石にやりすぎると怒られるけどよ、ある程度なら力を引き出す糧になると思うけどな」
「……ははっ――…やはりお強い、殿は」
「なんだよ、照れるな」


殿は、大喬が信じた人。

ならばただ心を真っ直ぐに、私はその力添えになればいい。案ずることなど、何もないのだ。

20140315

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