近付く姿に私の焦りも薄れていく。
敵に囲まれてはいるが、孫権様はご無事だ。あの数ならば私でも余裕で散らすことが出来るから、もう心配はいらない。
「はあっ!」
「――…おお、なまえか!無事だったのだな!」
「はっ。孫権様がご無事で、何よりです」
「なんとかな。他の者はどうだ?」
「まだ接触は。ですが、皆ならば」
「ああ。孫呉の炎は、容易く消えはしない」
孫権様の瞳は、未だ虎と称された孫堅様のような強さと輝きを秘めている。寧ろ、逆境を味わうほどに一層の深さが生まれるのだ。
乗り越える度に力強くなっていくお方、私はこの方を頂きまで押し上げるためならば、なんだって出来る。孫堅様や孫策様の意思ではなく、私は私の意思で、孫権様のためにありたいのだ。
「先決は皆との合流だな。恐らくは私を捜しているだろう」
「私にお任せを。例えこの命が尽きたとて、孫権様をお守りいたします」
「うむ、頼もしい限りだ。だがなまえ、能力以上は求めるな。お前も孫呉を導く一人なのだからな」
「……確と胸に」
「だからこそ迅速に引き上げ、その中途半端になっている手当てをせねば。それでは、何時倒れるか知れん」
孫権様から放たれた言葉に、つい動きを止める。疲労の滲んでいた表情の中に見えた笑み、瞬時に漏れたのは、微かな息だ。
「――気付いて、」
「それだけ布を染めておいて言うことか?――…行くぞなまえ、辛かろうが、持ち堪えてくれ」
「この命、孫権様のために果てる覚悟はとうに」
「その私のために繋いでほしいのだ」
行くぞ。
再び放たれた言葉。それでも孫権様、私は。
「…………なんと、難しい」
貴方のために、尽きたいと。
20131201→