染める

※男主

「ああもう、本当に重たい。こんなのさっさと脱いじゃいたいわ」
「姫様、どうか今暫くはご辛抱を。真が何にしても、相手方に疑念を抱かせてはなりませぬ」
「夫人らしく、でしょ?兄様にも散々言われた。なまえまで繰り返さないでよ」


うんざり。
姫様が直に口にされたわけではないが、表情と言葉尻には明らかに滲んでいる。日頃の姫様を思えば仕方なくもあるが、今は「嫌」が通るときではないのだ。

姫様はそれが是であると決まった日から、あるいは生を受けたその日から、国を左右する存在なのだから。


「…………なまえ、嫌な顔してるわね」
「それは姫様にとってでしょう」
「違うわよ!もうっ、なまえは私の護衛でしょう?」
「孫堅様より賜り、勉学を教授させていただくこともございましたね」
「今はっ、護衛でしょう!ああもう、本当に嫌らしい性格。なまえの奥様になる人は可哀相ね」
「それも摂理であると頷かれましょう、姫様のように」


嫌だ嫌だと駄々を捏ねていた姫様は、夫となる相手を知るなり破顔なさった。「運命ね」と頬を緩ませる様はすっかり幼さを失い、まあ驚いたものだ。

どうにも姫様が浮足だった相手が、夫となる劉備殿その人らしい。

ああ道理で。何も言葉にはしていないというのに姫様に体罰を受けたのも、最早懐かしい思い出だ。叩くというにも弱すぎる力であったが。


「姫様が今後お仕えすべきお方も、」
「仕える、じゃなくて助け合うの。支え合っていくのよ」
「――…では、訂正を。支え合うべきお方も、着飾った姫様に胸躍らせることでしょう」
「……そんなことを気にする人には見えないけど」
「それでも。今日というよき日を忘れられなくなるかと」
「なまえが言うと何故か心が乗ってないのよね。私を喜ばせたかったなら、大失敗なんだから」
「ともすればこれが今生の別れになるやもしれませぬのに、そのような意味のない言葉は吐きませぬ」
「……」


私が姫様をお送りできるのは城門までだ。そこに至れば姫様をお預けせねばならなくなる。

護衛と呼ぶにもおかしな護衛、これが私の最後の仕事。もう何年も前から姫様を指導してきた私の、姫様への最後の。


「とてもお綺麗です、姫様。劉玄徳殿も姫様のご到着を心待ちにしておいでですよ」
「やだ。最後の最後に泣かせないでよ、なまえ」
「しっかりと顔を上げて。これからの姫様の道が幸福で満たされますよう、お祈り申し上げます」
「――…ありがとう、なまえ。なまえの奥様になる人は幸せよ、きっと」
「きっとですか」
「ええ、きっと」


喜びに色付く頬が、その笑顔が。
どうか少しでも長く、続きますように。

20140202

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