疑う

※男主/ときめく続編

「君がなまえか」


紛れもなく我が身に起こった出来事に硬直する。奏でた後には大抵夢心地になるのだが、今回の夢はまた格別だ。

私の眼前には周瑜様、それだけでも有り得ないことだというのに、お声まで掛けていただいた。それに周瑜様は間違いなく私の名を、口に。


「…………はい」
「今日はすまなかったな。私個人としては、君の音を味わうことが出来て実に有意義だったが」
「きっ、恐悦至極に存じます」
「そう硬くならなくてもいい。――…ただ、そうだな」
「は、い」


小喬様を疑っていたわけではないが、彼女の言葉は本物であった。
周瑜様は本当に私をご存知で、見ていてくださったのだ。加えて有意義など、なんと、身に余る光栄か。


「体調でも悪かったのか?」
「え?い、いいえ。体調に問題は」
「私の杞憂だろうか。耳慣れた音色と何かが違う、緊張ではなく――…動揺、か。それを感じたのだが」
「動揺?」
「何もない、というのならそれでいい。ただ、小喬が君を訪ねたようだったから。もしそこで迷惑を掛けたのなら、申し訳ないことをしたと思ったのだ」
「小喬、様……」


周瑜様のお言葉に鼓動が跳ねる。

彼女は、それはそれは楽しそうにしていた。周瑜様に寄り添って、周瑜様と、微笑みあって。


「……なまえ?」
「あ、いいえ。何も。小喬様は確かにいらっしゃいました。周瑜様の奥方様と知り、動転したのでしょう」
「……それならばいいのだが」
「はい」
「今日は泊まるんだったな。明日にまた小喬が訪ねるかもしれないが、その時はよろしく頼む」
「それは勿論、是非」


周瑜様は笑みを浮かべる。
私にはそれがどんな意味を持つのか、皆目見当もつかない。

20131127

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