妬む

守る続編

「よかった、気がついたのね」
「――…練師、さま」


吐き出した言葉は、思いの外舌足らずになってしまった。それでも名を形にすることは出来たようで、私の声を聞いた練師様は笑みを深める。

独特な、薬の刺激臭。
私は別に構わないけれど、練師様にこの強い臭いが移ってしまうのはいかがなものか。練師様にはもっと柔らかな、あたたかい香りが似合うというのに。


「酷い出血だったから。よくあそこまで持ち堪えられたわね」
「……確かに、柔な傷ではないと思ってはいましたが。そこまで?」
「思わず皆が青くなるくらいには。巻かれた真っ赤な布はもう、触れた瞬間にぞっとしたわ」
「――…、」
「ね?」


私に直には触れず、動かないでと制するように手をかざす。くらくらと、気持ちが悪い。これは暫く、自由が利かなさそうだ。


「――孫権様は」
「ええ、ご無事よ」
「……よかった」
「本当に。なまえ殿が倒れまいと、最後まで孫権様をお守りすると強く思ってくれたからだわ。――…ありがとう」
「……何故、練師様が」
「私も孫呉を、孫権様を守ると誓った人間ですもの」


それだけだろうか、本当に。
瞬時にそう思考する程度の気力は残っているらしい。全く以て、嫌な頭ではないか。

練師様は私よりもずっと、孫権様個人を案ずるべき立場であるというのに。一介の将にすぎぬ人間が事細かに爪を立てて許される相手ではないのだ、練師様は。


「――…でもね、なまえ殿」


静かにそう零し、練師様は私を諭すように目を合わせる。ふつふつと場違いな苛立ちが沸き上がっているというのに私は、その瞳から目を逸らすことが出来ない。


「孫権様も言っていたとは思うけれど、私も言わせてもらうわね。……死んでもいいだなんて、考えないで」
「……」
「孫権様を守ると、強く誓ってくれるのは嬉しいの。私だって同じ気持ちだもの、当然。……だからこそ」
「生きろ、と?孫権様のために」
「――そう、私が言いたいのは」
「申し訳ありませんが、それは無理なお話です」
「……どうしてか、聞いてもいい?」


思いの外、練師様は冷静だ。私がそう答えるとわかっていたような、それでも尚言わねばと、そんな使命でも帯びたかのような。


「生きると決めたところで、私が望むものにはなれませんから」
「――…私もそうね。死ぬと決めたところで、何にもなれない」
「だからごめんなさい。私は、練師様にはなれないのです」
「……何か、精力になりそうなものを持ってくるわ。食べてちょうだいね」
「……はい」


舌を噛み切ってやろうか。別に死に執着をしているわけでも、ないけど。
だけどきっと、そうする前に。


「――…ごめんなさいね。でも私は絶対に、なまえ殿に元気になってもらうから」


思いっ切り頬を、叩かれるのだろう。

20131201

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テーマ「人外ファンタジー」
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