少女の頬はほんのり色づき、戸惑うように視線はさ迷う。そんな様子を魯粛はただ、参ったなあという気持ちで眺めていた。
眺める、というのも妙な話だろうか。
何せその、まさに乙女だとか女を覗かせた少女の前に立っているのが、魯粛なのだ。
誰かに想いを伝えてほしい、尋ねてほしいという願いならいくらでも聞いてやる。
しかし彼女のふとした瞬間は以前から魯粛を見ていたし、「魯粛様」という上擦った声も、気付かぬふりを貫かせるには酷であった。そうして聞いてやるのもまた、酷なのかもしれないが。
「そうか」
「……そうです」
「いや、そんな顔をするな。俺は昔から反応が薄いんだ」
「反応が薄い、というか。それは――…反応がない、というのでは」
「反応はしている。驚いてるぞ、随分な」
好意が嫌だと言いたいのではない。
恋心とは実に可愛らしく、輝いているとは思う。夫を慕う小喬や大喬の姿は見ているこちらが羨ましくなってしまうし、妻に微笑みかける周瑜や孫策は何時かそんな相手が出来ればいいと思わせるものだ。
それになまえを憎からず感じてもいる。ただそれは親が子を慈しむような、恋と呼ぶには打算のない真っ白なもの。なまえが魯粛を想う熱情とは、異なってしまう。
「お前のような可愛い子は、きっと誰からも慈しまれるだろうな」
「……魯粛様もその、私を」
「思っているさ、可愛い子だと。周瑜殿も微笑ましく感じておられるぞ」
「周瑜様?」
「好意はありがたい。ありがとうな、なまえ」
「――…、」
彼女にとって慕う相手になれたとしても、聞いたくせにと思われても。
それでも微笑む相手には、なってやれない。
20130908