忘れる

女ってのは、可愛いとか美人だとか気立てがいいとか言われると喜ぶ、らしい。確かに嬉しそうに笑ってるのを見たこともあるしな、納得だ。

まあ、なんにせよ。誰かに褒められて悪い気になるやつなんていねえだろ。
だからってわけじゃなく、世辞を言ってやろうと思ったわけでもない。だいたい、俺は世辞が苦手だ。ああいうのはもっと器用な、陸遜とか凌統みてえなのが言えばいいんだよ。

そういや、おっさんと朱然も頭は回るくせに世辞は得意じゃねえな。


「……お前に世辞なんか言って、なんの得になんだよ」
「お世辞じゃないなら余計に。二度と言わないで、絶対」


鋭い視線が突き刺さる。
何がそんなに嫌なんだ、こいつ。

馬鹿にしたわけじゃねえし、俺が世辞とかそういう冗談を言う人間じゃねえってのも、知ってんだろ。


「はあ?じゃあなんだ、お前はあれか?男だったらよかったのになとか、女とは思えねえって言われる方がいいのかよ」
「可愛いとか守ってやりたいって言われるよりは」
「そんなもんかあ?」


わかんねえ、と眉を寄せればなまえも似たような表情になった。俺が悪いのかよ。
それなりに付き合いを重ねたなまえでこれだ、やっぱ女って生き物は難しい。


「けどよ、俺の方が背も体格も勝ってんじゃねえか。お前に負ける要素なんて思い付かねえし、お前一人抱えて走り回るくらいわけねえよ。他のやつがどう言うかは知らねえが、顔も可愛いし。だから可愛いだろ、お前は」
「嬉しくないって言ってんの」
「そこまで嫌か」
「…………」


何か返ってくると思ったのに、なまえは俺を睨むだけで口を開きもしねえ。

ここで声を出すとなまえを気遣ってるような、負けた気分になるからやめだ、意地でも聞かねえ。


「…………胸に手ェあてて考えろ」
「あ?」
「次に言ったら口聞いてやんないから」


餓鬼かよ。
女とは思えないって問題じゃねえぞ、おい。だいたいだ。

なまえに無視されて困ることなんざ、ねえっての。

20150422

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