溢れ出す

真ん丸になった目。彼は戦働きをする人間にしては小柄で、それから目が大きいと思う。
さして身の丈の変わらない私にしてみれば、その意思の強い丸い瞳は羨ましかったりもするのだ。

だから、というわけではないのだが。


「…………」
「…………」


とは言え、女性には見えない。
やはり朱然は朱然で、私の認識として、朱然は男性である。何をどう間違えたところで女性には見えない。見えた人は、きっと疲れているのだ。


「いや、あのさ。どけよ」
「あ、ごめん」
「……聞いてたよな?」
「うん」


私と朱然以外に人がいないという状況が、そもそもいけない。あと、口だけで大した抵抗を見せない朱然も。
私は黄蓋殿を始め諸将のように筋骨逞しいわけではないのだから、朱然でも簡単に押し返せてしまうはずだ。

女官よりは力はあるだろうし、彼女達を守る自信にだって溢れていても、朱然はそれ以上の腕力を持っているはず。ならば何故、実力行使に出ないのか。


「背中が痛い」
「縁だもんね」
「大体な、お前が講釈してくれって言うから――…あと、踏んでる」
「聞いてたよ、ちゃんと」
「だから、割れたらどうするんだよ!聞いててこうなるってどういう、」
「こう、文字を目で追いながら話してる朱然を見てたらね、どうにも」
「…………勘弁してくれよ」


恥を知れ、と呂蒙殿に拳骨を喰らいそうだ。

床に転がった竹簡は朱然の個人的なものらしいので、割れてしまっても朱然に怒られるだけ。だから問題ない、とは言わないけど。

体勢が崩れてしまう懸念はあるけど仕方がない。言われた通りに足を動かせば、朱然が安堵したのがわかる。

これはだめだな、警戒の緩んだ目に少し下がった眉。どうにもやましい気持ちになるのは、朱然を見下ろす状態にあるからか。
妻やそうするつもりの女性の逃げ道を塞ぎ見詰める男性はこんな気分なのかと、品性の欠けた感情が沸き上がってどうしようもない。


「……変態だったのか、私」
「そこは開き直るところじゃないだろ」


唇を寄せるくらい。
いやせめて、髪か肌に触れるくらい、許されるんじゃないだろうか。

20140605

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