捨てる

貂蝉連載男主/死ネタ

昨夜、私はなんと言った。貂蝉様は。
彼女は、董卓様に会いに行くのだと言っていた。その際に生まれた違和感を、私は見ぬことにしたのだ。
貂蝉様が董卓様に会いに行かれるのは不思議なことではない。そう思い、目を瞑った。

何故、身を隠すように。
貂蝉様ならば、そのようなことをせずとも言葉を交わすことは出来るはず。昨夜投げ掛けられた問い、貂蝉様は私に何かを望んでいらしたのだろうか。


(董卓様が――…)


一体どうやってこの体が動いているのか、そんなことを考えている暇もないだろうに、なんの繋がりもない疑問ばかりが頭を巡る。

呂布様がいらっしゃるとはいえ、あの方が董卓様を守るために貂蝉様を殺すとは思えない。
本当にただ董卓様に会いに行かれただけならば杞憂だが、貂蝉様に泣きつかれたら。訴えられたら。そうなれば呂布様は、容易く董卓様に刃を向けるだろう。


(呂布様になど敵うはずが、……それどころか、貂蝉様にさえ、)


喧騒、焦燥。
あの影を目にした時に声を掛けてさえいれば。貂蝉様にだけ気づかれる程度に呼び止めていれば。
ああ、それでも「董卓様に会いに」と告げられてしまえば信じるのだろう。おかしいと思いながら、私は。


「――っ、董卓様!!!」


私が叫んだところで呂布様に、貂蝉様に躊躇いなど生まれるはずがない。たかが私の存在程度で手を止めてしまえるのなら、こんなに慎重に動くはずがないのだから。

それでも一瞬。ほんの一瞬、お二人の視線が動いたならば充分。飛び込むことは、私にも出来る。


「奉先様っ!!」


貂蝉様の焦ったような声。
それを強く意識するより先に、酷い苦痛と熱に襲われる。

董卓様は。
董卓様には、刃は届いていない。


「――……、と、うたく、さま……」
「なまえ、」


董卓様から零れ落ちた、私の名。
私を形作る、私の名。ご記憶いただいていたのか、こんな私を。


(もう、駄目なのだとしても。それでも)


僅かでも、董卓様を繋ぐことが出来た。そして、知ることが出来た。
私の生とは、決して悪いものではなかったと。


(――…私の夢は、叶った)


ただの盾の名を、董卓様はご存知であったのだから。

20131005

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