出会う

「迷子か?お嬢ちゃん」
「…………違う」
「違うのか。なら、散歩だな」
「そう、お散歩」


キッと瞳を鋭くして、不機嫌にも見える形に唇を結んだ少女は、韓当の言葉を受け腰に手を宛がう。

何を言っているの、あなた。
別に音にされたわけではないが、そう言われたような心地だ。


「そうだお嬢ちゃん、名前は?」
「なまえ」
「そうかそうか、なまえって言うんだな」


この小さな少女は、身体全部が自尊心で出来ているのかと思えるくらい凛としている。

韓当が声を掛ける前はやたらと周囲を見回して、立ち止まったかと思えば小道を覗きに戻ってみたりしていたというのに、迷子じゃないときた。
不安で泣きじゃくるよりも強い女を取ったのだろうか。まだまだ、「助けてください」が可愛くて堪らない年頃だろうに。


「ちなみになまえは、これから何処に行くつもりだったんだ?」
「………お家に帰る、つもり」
「そのお家ってのは何処にある?」
「街から出て、最初の分かれ道を、東に」
「おお、偶然だな!おじさんも、そっちに用事があるんだ。けど、道がわからなくてなあ。お嬢ちゃんに案内してもらえたら、嬉しいんだがなあ」
「自分が迷子なんでしょ。いいよ、案内してあげる」
「いや、優しいお嬢ちゃんでよかった。ん、街を出るにはこっちだったか」
「そ、そう!こっち!」


強がって、背伸びをしてみて。それでも不意に、綻びが生まれてしまうとは。
まったくなんとも、微笑ましい。

20130908

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