※男主
流石に打ち合いは無理だろうと疼く心を抑えて素振りに切り替えたというのに、結局痛みには襲われた。
身体は死んでいない、生きている。だからこそ苛立ちも募るのだ。「無理だとわかったなら大人しく寝台に転がっていろ」と女官に煩く言われ、そこから薬士に伝わりまた喧しい。
そうなることが一番面倒だというのに、どうしても止めたくない。痛みが引いたらもう一度、傷口が開こうものなら、今すぐにでも止めるのだが。
「もういいのか?暫くは見ないものと思ったが」
「いや、よくないよ」
「まあ、だろうな。さすってやろうか?届かんだろう」
「要らん」
「ははっ、そう不貞腐れるな。あの子なら背を叩くぞ、容赦なく」
「やりかけて躊躇って、結果腕を抓られてる」
「傷が開く心配は?」
「それは平気だと。だからそろそろ、叩かれる気はするな」
「なら戻れ。体もだが、精神にもよくはない」
「お前は俺のなんだよ」
「友人だ」
「…………何も言えん」
こんな物言いをされても不快でないのは、俺が太史慈に心を許しているからに他ならない。否定はしないし、太史慈のことは好きだ。
出来ることなら一本と思うが、容易く了承する男でないことも承知済み。「いっちょやるか」と言いながら、女官の前まで連れていかれそうじゃないか。
「俺にはさ、これしかないんだ」
「そう思うのなら酷使はやめておけ。取り返しがつかなくなるぞ」
「ごもっとも――…けどほら、今更頭を鍛えたところで、周瑜殿にはなれないだろ?そうなると、俺は力で殿をお支えするしかない。だから焦るんだよ、どうしても」
「……なまえ」
「なん、あだっ!」
殴られた。思いっきり拳を脳天に落とされた。じんじんどころか、直接頭の中で何かを掻き鳴らされているようにぐらぐらする。しかも舌まで噛んだぞ。かなり痛い。
「何すんだ!」
「二人で目指すと、あの言葉は何処かに捨てたか?」
「――あ」
「折角繋いだ命だろう。残った火種まで消す気か、お前は」
「……申し訳ない、太史慈様。でも痛い」
「ああ、少し強すぎたかもしれんな。それは謝る」
「ふざけんなこのっ!」
「お、いっちょやるか?」
「……!おうよ!」
「冗談だ。俺はあの日の誓いを貫くためにも、暫くはお前と寝台に仲良くやってもらうことに決めたのでな」
「……あいつ、俺を抓るだけでは飽きたらず……!」
「彼女の思いやりだろう。いい男ならば受け止めるべきだぞ、なまえ」
「くそっ!」
こいつと二人で殿の背を、道を。
簡単に想像出来てしまう未来が、待ち遠しい。
20140129