※眩う

※現代

自宅から駅に行くまでの間には、小さいながら目を引く花屋がある。老齢の夫婦が営んでいるそこは丁奉の気に入りで、定期的に花を買っては、夫婦と雑談を楽しんでいた。

そしてここ最近、といっても半年以上は経っただろうか。若い娘の姿を見るようになった。時には夫婦と、どちらか一方と、娘一人という日もあったか。
夫婦との仲は良好で、娘がいると笑顔も増える。それがあたたかく、ますます丁奉はあの花屋が好きになった。

ある日疑問に思った丁奉が尋ねると、娘は人好きする笑顔で実の親子だと教えてくれた。成る程だからかと納得したものである。それから観察してみれば、確かに娘は笑うと父親に似ているし、花を包む際には母親と同じ癖が出るので、丁奉の足はまた花屋へと向く。

まだ花は枯れてはいないから買うわけではないのだが、その親子を見ていたくて。話をしたくて。


「む」
「ああ、こんにちは」
「今日は一人か」
「はい。両親は出掛けてまして。たまにはゆっくり、旅行はどうかと勧めたんですよ」
「主はよかったのか?」
「二人で行ってほしかったんです。こうでもしないと働きすぎますから」


くすりと笑う娘の表情はやはり好ましい。夫婦も勿論なのだが、娘のそれは一層丁奉の心を弾ませる。
花に囲まれた彼女が、丁奉には何より可愛らしく見えて仕方がないのだ。


「ならば、暫くは主しかおらぬということか」
「そうですね。まあ、沢山お客様がいらっしゃる場所でもないですから」
「これ程までに美しい花で溢れているというのに、寂しいものだな」
「大切なときに彩ることが出来たらいいんですよ。それに――…」
「む?」
「お客様とお話しをするの、とても楽しいので。店番失格と思われるかもしれませんが、ゆっくり出来て嬉しいんです」
「うれ……」


はにかむ彼女にくらりとして。
そういえば、長らく通っているというのに、彼女の名前も知らなければ自分の名前も教えていない。


「……しいのか、主は」
「あっ!ご、ごめんなさい!勝手なことを――…」
「いや、構わぬ」


口にしてみても、尋ねてみても、いいのだろうか。互いの何かを知ってもおかしくはない間柄に、なれているのか。

眩い景色に、甘い方へと思考が流れる。

20140209

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