寂しがる

「かーんぺい」


呼んだら関平はすぐに振り返ってくれて、何時も柔らかい表情で私を見てくれる。

だというのに、このところは上の空。
すぐに私を見てくれていた関平はこの頃、二回三回と名前を呼ばなければ反応してくれなくなった。原因は何か。

原因は、あれだ。


「関平、関平関平、かーんーぺーいー」
「何回呼ぶんだ、なまえ」
「関平が反応しないからでしょ」
「…………あのなあ」


銀屏に向けるものとは違う、だから私はぐるぐるしてしまう。
銀屏に対する関平は正しく兄であり、兄以外の何者でもないのだ。羨ましいより微笑ましい姿なのだ。私がその場所にいたいのではなく、その姿を眺めていたいのだ。ところが。


「一言くらいいいじゃん。じゃないと、呼び続けるから」
「返事はした」
「どう?」
「ああ、と」
「……聞こえなかったんだけど。心ここにあらずだったんじゃないの?」
「そっ……、そんなことはないっ!」
「そうかなあ。じゃあ何、その反応」


私に対する返事が、小さく疎かになってしまうくらい。こっちを見るのが手間だと思ってしまうくらい、関平の意識が向かう場所がある。人がいる。
浅い付き合いじゃないのに今更。背が伸びたな、なんて考えてたら女の子になったとでも言うのだろうか。

前はすぐに振り返って、銀屏とはまた違う感じで接してくれていたのに。

妹になってしまったのかと言えばそうでもなく、私は関平にとって女の子ではないと知ったのだ。
だって関平が女の子を見る顔は、見せる態度は私へのそれじゃない。だから私は女の子ではなく私なのだ。昔から変わらず、なまえなのだ。


「……星彩の何が気になるの、そんなに」
「別に拙者は、ただ星彩がいるなと……折角だから手合わせはどうかと、考えていただけで」
「何、反応」
「いや、拙者にもどうにも――…このところ、どうにもおかしい。思い当たるものも、あると言えばあって」
「気のせい」
「気のせい、か。――…だからどうしたものかと……答えが見えず、つい」
「……見てたら見惚れてた、と」
「なまえの声は聞こえていた。決して、……見惚れていたわけでは」
「ふうん?」
「なんだ、ふうんって」


星彩が女の子になるなら、私だって女の子になっていいじゃない。なんで星彩はなれるのに私はなれないの。星彩はどちらかと言えばお姉さんのようで、関平が助けなくたって大丈夫じゃない。私は、私は。


「見惚れるのは勝手だけど、次からはもっと早く気づいてよ」
「だから気づいては、」
「私に聞こえてなきゃ一緒でしょ!」
「努力はするが――…いや、何故拙者がそこまで言われる!?」


どんどん遠くなる。寂しい。嫌だ。
だけど私はそんなことを言えた立場の人間じゃなくて。関平が私のために尽力する必要なんてなくて。関平は関平の感情に従うのが、普通なんだ。


「……関平が、返事しないからでしょ」


何時までも隣になんて、そんなことは、絶対に。

20140219

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