※女×女注意
視界に捉えた光景に、関銀屏は酷く不安定な感情を覚えた。苛立ちのような悲しみのような、苦しみでもあるような。
あれ、と首を傾げたところで渦巻くそれらが消えることはなく、正体がわかるわけでもなく。楽しくはないなあと、漠然とした答えにまた首を傾げ、逸らせばいいのに「見ろ!」と内側が訴えている気がして出来ない始末。
片っ端から負の感情を集めて作り出されたような引っ掛かりは、膨れるばかりだ。
(兄上?でも、兄上は私を無視したりなんてしないよ?)
では、親しそうに笑っているなまえ。彼女に兄を取られてしまいそうで、寂しいのだろうか。思うがこれは、そんなに可愛らしい感情ではない。
関興の楽しそうな表情は珍しいと思うけれど、何ともつかない負の感情の苛立ちの部分は、関興に向いているのだ。
(――…なんだろう、嫌な感じ)
拗ねた妹、ではなくて。
駄目だよと大声を出したくなるのは関興にでもなまえにでもあって、駄目ってなんだろうとまた思う。
関銀屏がそうであるように、関興もなまえも一人の人間だ。関銀屏が考えるように、関興だってなまえだって思考する。私が駄目だから駄目なんて、そんなのは身勝手でしかない。
(なまえも楽しそう。嬉しそう、かな?)
なまえは関銀屏と二人でいるときも楽しそうに笑ってくれるけれど。
そういえば彼女は料理が上手で、母親から徹底的に仕込まれたのだと言っていた。「銀屏が幸せそうだから、作るのが楽しいの」なんて、可愛らしい笑顔を浮かべてもいた。
その笑顔は関興と言葉を交わしているなまえよりずっと輝いていたと思うし、それに関興は知っているのだろうか、なまえは母親に似て料理上手だと。
(なまえは好きなのかな、兄上のこと。……私のこと)
聞いたことはないし、恋の話をしたこともない。関興ではないけれど、将来を誓いあった相手がいるのかもしれない。関興どころか関銀屏すら知らない男の人かもしれない。
そうなれば、なまえとの関係はどうなってしまうのだろう。まさか友達だからと居座るわけにもいかない。例えば相手が、関興であっても。
(男の人でも、だけど。――…なまえとずっと一緒にいるって、私じゃ無理なんだ)
言葉にするのは容易かろうと、実現するには重たいような気がしてしまう。
関興だったら、男だったら。そうしたらなまえとずっと一緒が叶ったのかもしれない。多少、強引であってもだ。
「――…悔しいな。寂しい、かな?……わかんない」
大好きなんだよ。
当たり前に伝えていたはずの言葉がこんなにも、苦しくて堪らない。
20141220